マネー&ビジネス
2025.05.19
再生可能エネルギーの普及拡大とともに、その電力を有効活用する鍵として注目されているのが「蓄電池ビジネス」です。これは、電力の需給バランスと価格変動を利用して利益を得る仕組みです。
電力が余っていて価格が安い時間帯(例えば、太陽光発電が活発な日中など)に、系統用蓄電池に電力を貯めます。そして、電力の需要が高まり、価格が上昇したタイミング(例えば、電力消費が増える夜間など)に、貯めた電力を電力市場に売ることで、その価格差が利益となるのです。
これまで、蓄電池は主に再生可能エネルギー発電設備に併設されるなど、電力を貯める役割が中心でした。しかし、2022年の電気事業法の改正によって、状況は大きく変わりました。なんと、1万kW以上の大規模な系統用蓄電池が、法律上「発電所」として正式に認められたのです。
これは、蓄電池ビジネスにとって革命的な出来事です。なぜなら、これまでのように他の発電設備に従属するのではなく、蓄電池単体で電力市場に「電力を売る」という独立したビジネスができるようになったからです。多くの企業にとって、これは新たなビジネスチャンスへの扉を開くものであり、参入への意欲を高めています。
さらに追い風となっているのが、日本政府が掲げる2050年カーボンニュートラルの目標です。この目標達成のためには、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーの大規模な導入が不可欠ですが、その電力は天候によって左右されるという課題があります。そこで、電力を安定的に供給するために、蓄電池の需要が今後ますます高まると期待されています。つまり、蓄電池ビジネスは、国のエネルギー政策の鍵となる部分を担う成長産業なのです。
国は蓄電池の導入を促進するため、2021年度から「系統用蓄電池の導入支援事業」が始まり、2024年5月にはすでに27件と多くのプロジェクトが支援を受けています。
そして、2024年度から、GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債という国の資金を活用した、総額400億円規模の大規模な支援事業がスタートしています。
さらに、国だけでなく、東京都は2025年、昨年度に引き続き、系統用大規模蓄電池導入支援事業へ130億円の予算を計上しました。この事業では、東京電力管内の電力系統に直接接続する蓄電システムの導入に必要な経費の一部を助成します。
国と自治体が一体となって蓄電池導入を財政面からサポートしていることは、これから蓄電池ビジネスを始める企業や投資を検討する人々にとって、非常に心強い保証と言えるでしょう。
系統用蓄電池を運用する上で、電力を取引し、収益を得るための主要な市場が3つあります。それぞれの市場の仕組みと、蓄電池がどのように活躍できるのかを見ていきましょう。
電力を取引する3つの電力市場
①卸電力市場
②容量市場
③需給調整市場
2005年からスタートした卸電力市場では、発電した電気をそのまま売買します。2016年の電力小売の完全自由化によって、様々な事業者が電力を取引するようになり、この市場はさらに大きくなりました。
しかし、この卸電力市場で利益を上げるためには、「実際に電力を売る」必要があります。発電しても、買い手がいなければ収入にはなりません。また、発電所の建設や設備の導入には多くの初期費用がかかるため、収入が不安定になりやすいという側面があります。
こうしたリスクをカバーするために用意されているのが、「容量市場」と「需給調整市場」です。これらの市場では、電力を実際に売るだけでなく、「供給できる力」や「電力の調整力」そのものにも価値がつく仕組みになっていて、安定的な収益を確保しやすくなります。
容量市場は、4年後の日本全体の電力需要を予測し、その需要に応じた「電力を供給する力(供給能力)」を取引する市場です。様々な発電事業者(風力、火力、原子力、太陽光など)が参加し、「4年後に〇〇メガワットの電力を、この価格で供給します」と約束します。そして、その供給力を買いたい側(国の機関など)との間で、オークション形式で契約が決まります。
容量市場では、発電事業者がオークションに参加して、「4年後に、これくらいの電力を供給できます!」という提案をします。
オークションで選ばれた(=落札した)発電事業者には、「容量確保契約金」と呼ばれる報酬が支払われます。このお金は、将来の電力供給を事前に約束することで得られる収入なので、事業者にとっては安定した売上が見込める仕組みになっています。
この「容量確保契約金」の原資となるのが、電力小売会社が負担する「容量拠出金(ようりょうきょしゅつきん)」です。
各小売事業者は、自分たちの電力販売シェアに応じて拠出金を支払い、それがまとめて、オークションで選ばれた発電事業者へ支払われます。
つまり、みんなで少しずつ出し合ったお金を使って、将来の電力供給を支えるしくみです。
発電設備の建設には、大きな資金が必要です。しかし、容量市場で「4年後の収入」がある程度確定していれば、発電事業者は安心して設備投資や事業計画を立てることができます。
この容量市場は2020年からオークションが始まり、2024年から実際の報酬の支払いがスタートしています。今では、電力の安定供給を支える“裏方の主役”として、重要な市場になっています。
需給調整市場は、電気の「供給」と「使用」のバランスを保つための市場です。電気は基本的に貯めておくことが難しく、停電リスクなどの発生があるため、一致している必要があります。しかし、貯めておくことが難しいため、気象の変化や機器トラブルなどが起きた時に、需要と供給バランスが崩れることがあります。
このとき、電力の流れをすばやく調整する役割を担うのが、需給調整市場です。
この市場では、あらかじめ「調整力」を取引しておく仕組みがあります。
たとえば…
・強風で風力発電が想定以上に電気を作ってしまったとき
・曇りや機器故障で太陽光の出力が下がったとき
こうしたときに備えて、事前に「いざという時は電力を出せます(または吸収できます)」という体制を整えておくのが、この市場の目的です。
2024年度からは、需給調整市場で取引される「調整力」がさらに細分化され、応動時間や継続時間によって区分した5つのカテゴリーで取引されるようになりました。再生可能エネルギーのように出力が変動しやすい電源も、より柔軟かつ適切に市場で取り扱われるようになっています。
この需給調整市場において、蓄電池の最大の強みは放電(電気を出す)と充電(電気をためる)を瞬時に切り替えられる柔軟性にあります。これにより、急な電力の増減にもスピーディに対応でき、送配電事業者からの指令にすぐ応じることができます。
ガス発電などの他の設備に比べても、蓄電池は即時対応力に優れており、需給調整市場において非常に重宝される存在です。
蓄電池ビジネスは、これからのエネルギー社会を支える「欠かせない存在」になろうとしています。法改正によって制度面での後押しが進み、技術もどんどん進化している今、蓄電池は効率的でコスト面でも優れた選択肢として注目されています。
特に、太陽光や風力といった再生可能エネルギーの普及が進む中で、その変動をうまく調整できる蓄電池の役割はますます重要になってきています。制度の整備、技術の進化、そして社会からのニーズなど、これらがそろっている今こそ、蓄電池ビジネスは未来のエネルギー市場の主役として成長が期待される分野です。
安定収益を目指したい投資家にも、環境に配慮した取り組みをしたい企業にも、見逃せない分野になってきています。
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