マネー&ビジネス
2026.01.30
マルチアセット戦略とは、グローバルに分散された複数の資産クラスや運用スタイルに投資を行う運用手法です。この戦略の最大の特徴は、株式や債券といった伝統的資産に加え、不動産、コモディティ(商品)、ヘッジファンド、プライベート・マーケットといったオルタナティブ(代替)資産を幅広く組み合わせる点にあります。
「マルチ(複数の)」「アセット(資産)」という言葉通り、単一の資産に依存せず、すべての主要な資産クラス(株式、債券、不動産、現金など)を活用してポートフォリオを構築します。投資信託などの金融商品を利用することで、個人投資家であっても少額から、プロフェッショナルが管理する高度なマルチアセット戦略へ投資することが可能です。
マルチアセット運用の優位性は、「分散投資の力」によってリスクを抑えながら効率的なリターンを追求できる点にあります。歴史が示す通り、単一の資産クラスや特定の運用スタイルが常に市場をアウトパフォームし続けることはなく、あらゆる分野ですべてを得意とする運用機関も存在しません。
そのため、異なる値動きをする資産を組み合わせることで、ポートフォリオ全体のボラティリティ(変動性)を抑制し、運用効率の最大化を図ります。金融市場が好況の際には運用目標の達成を確実なものとし、不況の際には被害を最小限に抑えることを目指すのがこの戦略の根幹です。特に不確実性が高い環境下では、分散投資によって下値を抑制しつつ資産を育てていく手法が極めて有効です。
毎年、値上がり率が最も高い資産クラスを的確に当て続けることができれば、大きな運用益を得られる可能性があります。しかし、実際には毎年トップとなる資産クラスを予測し続けることは容易ではありません。
一方で、国内債券、国内株式、外国債券、外国株式といった主要な4資産に分散して投資した場合の結果をみると、各資産に25%ずつ配分したポートフォリオは、順位表で1位になることはなかったものの、最下位に沈むこともありませんでした。
このように、大きな損失を回避し、安定した運用を目指すためには、複数の資産に分散投資することが重要です。

出典:GPIF
マルチアセット戦略には、投資家の目的や市場環境に応じて多種多様な構成が存在します。
資産配分の柔軟性については、あらかじめ決められた比率を維持する「静的」な配分から、市場動向に応じて比率を大胆に変える「動的」な配分まで多岐にわたります。運用スタイルの融合では、特定の市場を上回る成果を狙う「アクティブ運用」と、低コストで市場平均を追う「パッシブ運用(ETFなど)」を効率的に組み合わせるアプローチも採用されています。さらに、リスク許容度への適応として、投資家が許容できるリスクの程度に応じて、保守的、中庸(安定成長)、積極的といった異なる運用スタイルを選択できるよう設計されています。
「真のマルチアセット運用」を実現するための鍵は、機動的資産配分(ダイナミック・ポートフォリオ・マネジメント)にあります。金融市場は常に変化しており、長期的な運用目標を達成するためには、その変化をあらかじめ見越した計画的な調整が不可欠です。
プロの運用チームは、市場の変化に柔軟に適応し、短期的な投資機会を活用しながらリターンの向上を目指します。市場のトレンドに応じて資産の比率を自動的、あるいは裁量的に調整することで、投資家は自ら売買のタイミングを判断する手間から解放され、市場動向に一喜一憂することなく長期的な資産形成に取り組むことができます。
高度なマルチアセット戦略では、科学的なデータ分析とリスク管理が徹底されています。例えば、運用目標達成の可能性を最大化するために、5,000通り以上のシナリオに基づいたストレステストを実施し、ポートフォリオの耐性を設計する手法を取っている運用会社もあります。
分析プロセスにおいては、マクロ経済、バリュエーション(投資価値評価)、市場心理(センチメント)、テクニカル要因などを組み合わせた独自の定量フレームワークが活用されます。さらに、単なる数値計算だけでなく、企業の構造的な側面や事業条件の変化、さらには広範な経済的・政治的イベント、地政学的トレンドといった多層的なリスクフィルターを適用することで、想定外の事態にも対応可能な「ダウンサイド・プロテクション(下値保護)」を追求しています。
マルチアセット運用は、資産配分、各資産の銘柄選択、リスク管理の専門家が集結したチーム体制で行われます。チームメンバーは、あらゆる市場局面に耐えうる強固なポートフォリオを構築するために日々研鑽に努め、自らの投資行動について確固たる自信と説明責任を持って運用にあたっています。
運用チーム内では、すべての投資判断について徹底的な議論が行われ、特定の資産や証券にリスクが偏らないよう、バランスの取れたリスク配分が常に監視されています。
マルチアセット戦略の例を紹介します。
資産成長戦略(または資本成長戦略)は、長期的に投資ポートフォリオ全体の価値を高めることを最大の目的としています。主に住宅購入や子供の教育資金といった将来の大きなライフイベントに備えたい投資家を想定しており、長期的な資産の伸びを期待できる株式や成長セクター(テクノロジーやヘルスケアなど)への配分を厚くします。短期的な変動リスクを一定程度許容しつつ、複利効果を活かした資産形成を目指すアプローチです。
資産保全戦略は、すでに保有している資産の維持と損失の防止に焦点を当てた、保守的な投資手法です。この戦略の主な目的は、元本を守りながらインフレ(物価上昇)による資産価値の目減りに対応することにあります。リターンの期待値は成長戦略に比べて低くなる傾向にありますが、日々の生活費の確保や現状の資産維持を最優先する、慎重な投資姿勢を持つ人々に適しています。
インカム創出戦略は、債券の利息、株式の配当、不動産収益といった定期的な収益(インカム)の獲得を目指します。高品質な利回り資産を厳選し、長期的な成長性を持つ資産と組み合わせることで、安定した、かつ将来的に上昇する可能性のあるインカムフローの提供を目標とします。特に、低金利環境下で利回りを確保したい場合や、資産を取り崩さずに一定の現金収入を得たい投資家にとって有効な選択肢です。
現代のマルチアセット戦略では、財務的なリターンに加え、社会的な責任を果たすことも重視されています。
ESG要素の組み入れでは、環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)の基準を投資プロセスに統合し、持続可能な経営を行う企業を支援します。インパクト投資は責任投資の進化系であり、運用リターンを追求しつつ、社会に対してポジティブで測定可能な影響を与えることを目的とします。具体的には、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の17の目標達成に貢献する企業やプロジェクト(気候変動対策、社会課題解決など)に投資し、社会貢献と資産成長の両立を目指します。
一部の運用機関では、個々の運用担当者の裁量に任せるのではなく、チーム全体で投資家の「目指すべき運用目標」を共有することを最優先しています。独自のツールを用いて様々なシナリオ下でのシミュレーションを繰り返し、目標達成のために異なる資産クラスが持つ強みを最大限に引き出すポートフォリオを構築します。この「目標主導型」のプロセスにより、どのような市場環境においても期待された成果に近づける可能性を高めます。
「バランスのとれた運用レシピ」を掲げ、インカム収益の積み上げを重視するアプローチです。株式市場が不安定な局面であっても、相対的に安定した収益源となる利息や配当に着目することで、ポートフォリオの安定性を高めます。複数の国やセクターに幅広くインカムの源泉を分散させることが、リスク軽減と収益確保の両立につながります。
一般的な運用では特定の指数(ベンチマーク)との乖離を抑えることが意識されますが、より柔軟な戦略ではベンチマークに縛られない運用が行われます。これにより、資産クラスの配分比率を0%(非保有)から100%(最大)まで自在に調整することが可能となります。例えば、急激な市場下落が予想される場合には、特定の資産クラスをゼロまで減らすことで、従来の持ち切り(バイ・アンド・ホールド)戦略よりも劇的にボラティリティを低下させることが期待できます。
伝統的な資産クラス(株式、債券など)との相関が極めて低い「オルタナティブ・リスク・プレミアム」を獲得する高度な戦略です。世界中の80を超える投資対象を駆使し、定量分析に基づいた規律あるプロセスを用いることで、市場に潜む収益機会を効率的に発見・獲得します。伝統的資産が売られる局面でも、主要運用会社が採用する独自の戦略的アプローチにより収益源を確保することで、、トータルリターンの安定化を図ります。
金融市場には「不確実性」という確実な事実があります。将来の動きを完全に予測することは誰にもできませんが、マルチアセット戦略を活用すれば、最悪のシナリオにおいても最善の選択肢を見つけ出すことが可能になります。
ただし、注意点もあります。マルチアセット戦略は主に有価証券に投資するため、価格変動や外貨投資に伴う為替変動の影響を直接受けます。加えて、商品設計が比較的複雑であることや、信託報酬などのコスト(手数料)が高くなりやすい点、投資対象によっては流動性が低い場合がある点についても、十分に理解しておく必要があります。これらの要因により、投資元本を割り込むおそれがあり、元本が保証されているわけではありません。最終的な投資判断は、目論見書などの資料を丁寧に確認したうえで、自身のライフプランやリスク許容度と照らし合わせて行うことが重要です。
Writer&Supervisor
執筆&監修者
山下 耕太郎
Koutarou Yamashita
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