マネー&ビジネス
2026.02.06
近年、日本でも新NISA制度の拡充や老後資金への関心の高まりを受け、資産形成ブームが巻き起こっています。それに伴い、投資に関する情報を得る主要なチャネルは、従来の金融機関の窓口や専門書から、YouTubeやTikTok、X(旧Twitter)といったソーシャルメディアへと急速に移行しました。
しかし、「誰でも月5万円の不労所得」「これさえやればOK」といった、耳障りの良い一方で根拠の乏しい情報が氾濫する現状は、多くの金融トラブルを引き起こしています。このような「バズ投資」時代において、私たちは情報発信者をどう見極め、資産を守っていけば良いのでしょうか。
本記事では、金融とインフルエンサーの境界線に存在する「フィンフルエンサー」の定義から、その功罪、そして2025年に証券監督者国際機構(IOSCO)が公表した最新の国際的な規制動向までを徹底的に解説します。
フィンフルエンサー(Finfluencer)とは、「Finance(金融)」と「Influencer(インフルエンサー)」を組み合わせた造語です。一般的に、ソーシャルメディアや動画サイトを通じて、投資や金融に関する情報を提供する、多数のフォロワーを持つ人々を指します。
彼らが発信するコンテンツは多岐にわたります。具体的には、投資の基礎知識、資産形成のコツ、暗号資産(仮想通貨)に関する解説、金融サービスの紹介、家計管理、さらには日本国内であれば新NISAやふるさと納税の解説なども広く「お金」に関する情報として届けられています。
フィンフルエンサーが主戦場とするのは、情報の即時性と拡散力、そして視覚的な訴求力に優れるプラットフォームで、TikTok、YouTube、Instagram、そしてX(旧Twitter)などが中心です。
急増の背景
フィンフルエンサーが人気を集めるようになった背景には、複数の社会構造の変化があります。一つは、金融サービスにITテクノロジーを活用するフィンテック(FinTech)の広まりです。スマートフォン一つで投資が可能になる環境が整い、テクノロジーに精通したZ世代やミレニアル世代が積極的に金融情報を発信するようになりました。
また、不安定な経済状況や若年層の高い失業率などにより、将来に対する経済的な不安が高まったことも要因です。不安を解消するために、若者が金融リテラシーを高めようと金融教育に関心を持つようになり、日常的に利用するSNS上で情報を求めるようになりました。
個人投資や暗号資産が一般に普及したことも、フィンフルエンサー増加の大きな要因です。特に日本では、新NISAの拡充により投資家の裾野が広がっており、フィンフルエンサーの存在感は今後さらに強まると予測されています。
金融庁の2024年の調査では、ネット系金融機関を利用する18歳から29歳の半数近く(51%)がSNSから、44%がYouTubeなどの動画サイトから資産運用に関する情報を入手していることが示されています。これは、金融機関のサイト(33%)よりも高い割合であり、若い世代の投資判断で頼る先が従来とは変質していることを示しています。彼らは店頭で資産運用を相談することは少なく、SNSでの情報収集と投資判断を密接に行う傾向にあります。
フィンフルエンサーは、複雑で難解になりがちな金融用語や制度を、「カンタンでわかりやすい」言葉や視覚的なコンテンツに変換して提供する能力に優れています。情報の簡便化は、投資に対するハードルを下げ、忙しい現代人の情報消費スタイルにマッチしています。
フィンフルエンサーは、堅苦しい専門用語の壁を取り払い、金融の民主化を促進しているという側面があります。若年層や投資初心者が金融リテラシーを向上させ、投資への関心を高めるきっかけとなり、特に若年層の資産形成を後押ししています。
SNSは、個人が投資に踏み出す第一歩を提供しています。動画を見て具体的な銘柄選びの手段とするなど、彼らの発信は投資行動を促す重要なきっかけとなっています。
フィンフルエンサーの多くは、金融機関のような厳しいコンプライアンスの制約や監督の下にありません。そのため、「これさえやればOK」「絶対に増える」といった、リスクを無視した根拠のない断定表現を多用する傾向があります。金融機関やファイナンシャルプランナー(FP)などのプロフェッショナルは、リスク説明の義務や将来の成果を保証する表現の禁止など、厳しいルール(コンプライアンス)のもとで情報発信が求められるため、フィンフルエンサーの発信内容は、安全・正確・公平性の面で課題を残します。
フィンフルエンサーは、投資助言の専門的な資格や監督体制を持たない無登録の個人であることが多く、彼らの発信が不正確なコンテンツや不正な広告につながる危険性があります。また、「元証券マン」「元銀行員」といった肩書きを持つ者もいますが、「元」であれば現役時代の制約は一切なくなり、断定的な情報発信や勧誘を行うケースも散見されます。
SNSでの人気を背景に、フォロワーを高額な商品や有料のオンラインサロンへ誘導し、怪しい投資話や商材販売を行うケースが多数報告されており、金融トラブルの相談件数は急増しています。東京都の消費生活総合センターでは、インフルエンサーに勧められた投資に関するトラブル相談が2020年度に比べ2024年度には10倍に増加した事例が確認されています。
さらに、ライブ配信中に視聴者から金やギフトを受け取る「投げ銭」機能がある場合、投げ銭に応じて特定の銘柄を推奨する行為は、契約に基づき報酬を受け取って投資を指南する「投資助言業」に抵触する可能性があり、法的問題のグレーゾーンとなっています。
フィンフルエンサーが特定の株式の銘柄をSNSで煽り、短期間で急激に値上がりさせる「ミーム株(Meme Stock)」のように、相場を意図的に動かす行為(パンプ・アンド・ダンプ)は、相場操縦につながるリスクがあります。
また、証券監督者国際機構(IOSCO)は、フィンフルエンサーの活動が、オンライン上での模倣取引(コピー・トレーディング、ミラー・トレーディング、ソーシャル・トレーディング)と交錯している点を指摘しています。自動化された模倣取引は、個人投資家が自身の財務状況やリスク許容度を理解せずに、ハイリスクな戦略を模倣してしまい、重大な損失を被る可能性があるため、投資家被害のリスクが高まります。
最近では、AI偽動画(ディープフェイク)を利用した詐欺手法が急増しています。有名人の顔や声をAIで合成し、あたかも本人が特定の投資を勧めているかのように見せかけ、一般消費者を騙す手口です。
世界の規制強化の流れ
証券監督者国際機構(IOSCO)は、金融市場のデジタル化が進む中で、個人投資家を詐欺、過度なリスクテイク、誤情報から守るための戦略として、2024年11月から「個人投資家向けオンライン安全戦略」を推進しています。このロードマップの「第3の波」として、IOSCOは令和7年(2025年)5月19日に「フィンフルエンサー」に関する最終報告書を公表しました。
報告書は、フィンフルエンサーが特に若い世代の投資判断に大きな影響を与えているとの見解を示しつつ、いくつかの問題を指摘しています。第一に、登録された投資助言専門家に求められる専門的な資格や監督なしに、個人が個人投資家に影響を与えることによる規制カバレッジの潜在的なギャップが存在します。第二に、オンラインでの模倣取引戦略とフィンフルエンサーの活動が交錯し、プラットフォームが利用するデジタル・エンゲージメント・プラクティス(DEPs:ゲーミフィケーション技術など)によって、さらに状況が複雑化している点です。これらの技術は投資家の行動や意思決定に影響を及ぼし、仲介業者の利益を優先するものであってはならないと強調されています。
IOSCOは、規制当局、市場仲介業者、そしてフィンフルエンサー自身に対して、「グッド・プラクティス(良き慣行)」のセットを提案しました。これは、より透明性が高く、説明責任を伴う環境を育成することを目的としています。この報告書は、急速にデジタル化する世界において、小売投資家を保護するというIOSCOの使命における重要な節目であると位置づけられています。
諸外国では、フィンフルエンサーに特化した規制や監視が活発化しています。英国金融行為監督機構(FCA)は2024年3月に、SNSなどでの金融系の情報発信に関する法的責任を明確化するための指針を公表しました。さらに同年10月には、フィンフルエンサーが運営するソーシャルメディアのアカウント38件に対して警告を発しています。
オーストラリア証券投資委員会(ASIC)はフィンフルエンサーに対して、SNS上で適切な行動を取るよう警告しており、金融商品の宣伝に関して警告に従わなかった場合は、罰則を受ける可能性があるとしています。
国境を越えた違法なフィンフルエンサーの活動に対抗するため、規制当局間の国際協力も進んでいます。2025年6月には、英国(FCA)を中心に、オーストラリア、カナダ、香港、イタリア、アラブ首長国連邦の規制当局が連携し、違法なフィンフルエンサーの一斉取締りを行いました。これにより、フィンフルエンサーの逮捕・刑事訴追や、海外事業者に対するマーケティング活動の停止要請など、多様な措置が講じられています。
SNSのプラットフォーマー側も対策に乗り出しています。TikTokは、ユーザーを詐欺から守るため、2021年に金融サービス商品の広告を禁止するポリシーを導入しました。また、Googleも金融サービスの広告主に対し、複雑な投機的金融商品や暗号資産の広告を掲載する際、各国の関係当局の認可とGoogleの承認を受けることを要件とするなど、取り締まりを強化しています。
日本において、金融商品の価値や投資判断に関する助言を行い、契約に基づき報酬を受け取る場合は、金融商品取引法(金商法)に基づき「投資助言・代理業」として内閣総理大臣の登録が義務付けられています。登録業者は監督官庁による監督対象となり、虚偽説明などの不適切な行為は行政処分の対象となります。
フィンフルエンサーの活動がこの「投資助言・代理業」に該当するかどうかは、
①有料コンテンツの販売などで報酬を受け取っているか
②有価証券の価値や投資判断に関する助言を行っているか
といった点が基準となります。
しかし、フィンフルエンサーが「業を営んでいる」かどうかの判定は困難を伴います。特に、無登録業者が不正を行った場合、顧客からの被害申告や相談がなければ、人員が限られた当局の監視の目は届きにくいのが現状です。
また、ソーシャルメディア上で散見される個別銘柄の評価や、真偽不明な情報で売買を煽る投稿などを、現行の法規制で完全に規制することは難しいとされています。誇大広告を禁じた景品表示法などに抵触する可能性はありますが、フィンフルエンサー側が正確に法規制を理解していないケースも多いとみられます。
フィンフルエンサーがフォロワーを誘導するオンラインサロンのような有料の会員制コミュニティーは、閉鎖空間でのやり取りとなるため、当局による実態の把握や監視が非常に難しくなります。この閉鎖性が、投資助言業にあたる可能性のある助言行為を水面下で行う「グレーゾーン」を生み出しています。
SNSを運営するプラットフォーマーによる監視も限定的です。2025年4月に施行された情報流通プラットフォーム対処法では、違法・有害な投稿の削除基準の策定が求められていますが、表現の自由との兼ね合いもあり、発信を制限することには難しい側面があります。
日本では、フィンフルエンサーに関するルールづくりの議論がまだ始まっていない状況です。専門家からは、国が、どのような投稿や行為が現行の法規制に抵触しうるかを整理し、広く周知するべきだという提言が出ています。これにより、フィンフルエンサーと受け手双方に法的・倫理的な境界線を明確に伝えることができます。
規制だけでなく、フィンフルエンサー自身への教育や啓発も重要視されています。IOSCOの報告書でも、フィンフルエンサー自身への教育の重要性が提案されていますが、日本でも注意喚起や教育の充実、さらには適正な発信者を認定する認証制度の創設が期待されています。
「バズ投資」が主流となる現代において、投資家保護のあり方自体を見直す必要があります。デジタル化が進む環境下で、金融庁や総務省の担当者も「現状では個人が備える金融リテラシーに頼るしかない」と述べており、社会全体で自立した投資家を育成するエコシステムの整備が急務です。
フィンフルエンサーは金融情報を身近にした一方で、その情報源が規制の外にあるため、受け手である個人投資家が自ら身を守る能力、すなわち金融リテラシーを高めることが極めて重要です。
SNSの情報は、あくまで「きっかけ」に過ぎず、「答え」ではありません。フィンフルエンサーのフォロワー数や高評価の数は、その発信の信頼性を示すものではないということを理解しておく必要があります。
SNSは、似た意見が自然と集まり、異なる意見に触れにくくなる「エコーチェンバー現象」の特性を持ちます。派手で断定的な発信ほど、冷静にその裏側を見ようとする姿勢、つまり慎重に情報を取捨選択する「見極め力」が求められます。
投資家は、情報源が誰であるか、そしてその発信者が今どんな立場で、何の目的(利益相反がないか)で発信しているかを冷静に見極める必要があります。特に「元金融マン」といった肩書きに惑わされず、情報の内容が公式な情報(金融庁や取引所のデータ、目論見書など)で裏付けられるかを、必ず確認する習慣を持つことが大切です。
本当の金融リテラシーとは、「投資で儲けた人」を意味するのではなく、「金融の仕組みやリスクを理解し、正しく判断する力」を指します。
具体的には、「この情報は本当に正しいか?」「自分にとって最適な選択か?」「リスクはどこにあるか?」という問いを常に持ち、冷静に考えることが、自身の未来を守る力となります。
投資に迷いが生じたときや、不安を感じたときは、SNS上の情報に依存するのではなく、信頼できるファイナンシャルプランナー(FP)や金融の専門家に相談し、セカンドオピニオンを求めることが賢明です。
フィンフルエンサーは、金融情報を身近なものとし、若い世代の投資行動を後押しする「光」の側面を持つ一方で、無資格者による不正確な情報や、高リスクな模倣取引への誘導、さらには詐欺的な行為を助長する「影」の側面を強く持っています。
2025年のIOSCO最終報告書や各国当局による一斉取締りの動きは、「バズ投資」が世界的な規制の論点に浮上したことを示しています。今後、日本においても、法規制の明確化や、フィンフルエンサーへの教育・認証制度の整備が進むことが期待されますが、それには時間を要します。
この過渡期において、投資家自身が情報を鵜呑みにせず、リスクを理解し、自立して判断する「金融リテラシー」を磨くことが、資産を守り、形成していくための最も強力な防衛策となるでしょう。
Writer&Supervisor
執筆&監修者
山下 耕太郎
Koutarou Yamashita
本コンテンツは、投資判断の参考となる情報提供のみを目的として作成されたものです。投資家は投資商品ごとのリスクを十分理解したうえで、投資について調査・検討し、自らの責任の下で投資を行うようお願いします。掲載されている情報を基に損害を被った場合でも、運営会社及び情報発信元は一切の責任を負いません。本コンテンツに掲載される情報は、弊社が信頼できると判断した情報源を元に作成していますが、その情報の確実性を保証したものではありません。なお、本コンテンツの記載内容は予告なしに変更することがあります。
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