アート&カルチャー
2024.03.15
前回の『急成長する世界のアート市場』では、市場規模の観点から海外のアートフェアに焦点を当ててご紹介しました。今回は3月7日~10日にわたって開催されていた「アートフェア東京2024」の取材を通して、国内のアート市場における最新の動向およびアートフェアの楽しみ方をお伝えします。
〈文=住友優太〉
「アートフェア東京」は、2005年から有楽町の東京国際フォーラムで開催されている国内最大級のアートフェアです。18回目を迎えた今年は、国内外36都市から156軒のギャラリーが出展。来場者は3月7日~10日の4日間で5万5,000人以上にのぼりました。
100軒以上のギャラリーが一堂に会する「ホールE」、新規コレクターの入口としての側面を併せ持つ「ロビーギャラリー」の2つのエリアで構成されるアートフェア東京は、多くのアートコレクターの幅広い需要に対応しているのが特徴です。
有料チケットが必要なホールEは、国内外の有力ギャラリーが出展する「Galleries」セクションのメイン会場であり*1、今年は116軒のギャラリーが軒を連ねました。
アートフェア東京は、現代アートだけでなく幅広いジャンルの作品が展示されている、世界的にも珍しいアートフェアです。撮影禁止のブースも多く、その魅力を十分にお伝えすることはできませんが、縄文時代の火焔型土器、南宋時代の龍泉窯青磁、葛飾北斎の肉筆春画、ゴッホの素描作品、1950年代~1990年代の白髪一雄の作品群など、国内外の有名ギャラリーが選りすぐった古今東西の珠玉の逸品が一堂に会する空間は、まさに圧巻の一言に尽きます。
また各ギャラリーが持ち寄ったミュージアムピース級の作品を鑑賞することは、言い換えれば一流ギャラリストのすぐれた審美眼に触れる体験でもあります。気に入った作品があれば積極的にギャラリストに話しかけてみるとよいでしょう。このような交流こそがアートフェアの醍醐味です。
無料で誰もが楽しめるロビーギャラリーは「Crossing」と「Projects」の2つのセクションを中心に構成されています。
「Crossing」は20年以上にわたって日本人若手アーティストの育成に力を注ぐ「ポーラ美術振興財団」、渋谷や原宿の文化を中心としながら独自のキュレーションで存在感を発揮する百貨店「そごう・西武」、数百年の伝統と日本各地の文化を今に伝える地方工芸団体など、出展ブース数は9軒と最も少ないですが様々な分野のアート作品が文字通り交差し、最新のアートシーンを様々な角度から発信していました。
15軒のギャラリーが約7㎡の定型ブースで個展形式の展示販売を行った「Projects」では、今回が初の試みとなる海外キュレーターを招聘した特別展「The Project YUGEN」が開催されました。「The Project YUGEN」はロンドンを拠点にキュレーターとして活動するタラ・ロンディ(Tara Londi)が、日本語の『幽玄』というテーマのもと選んだ8人のアーティストによるグループ展です。日本語の通訳スタッフも常駐しており、海外キュレーターと直接コミュニケーションが取れる貴重な機会を提供していました。
会期中、2日間にわたって訪れた筆者の感想としては、展示の大多数を占める現代アートはポップな作品が目立ち、渋谷や原宿といった東京独自の文化から生まれたストリート系の作品が比較的若いコレクターに受け入れられている印象を受けました。
また現代アート作品であればアーティスト本人が来廊していることも珍しくなく、来場者がアーティストから直接作品の説明を受けている姿がいたるところで見られました。玄人向けの古美術や美術史に名を刻む巨匠作品までもを網羅しながら、同時代的な接点を持つ現代アート作品を契機として新規のコレクターが生まれるという理想的な新陳代謝を促す役割をアートフェア東京は十分に果たしているのではないでしょうか。このサイクルは現代アート市場の成長とも密接につながっており、健全な価格形成に欠かせない重要なファクターです。
*1 「Galleries」セクションはロビーギャラリーにも16軒のギャラリーブースが設置されていました。
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