アート&カルチャー

2024.04.12

「若手アーティストが創作に専念できる環境を」ヤマワケアート株式会社代表 大石主歩インタビュー

昨年11月、新進気鋭のアーティストをサポートし、新たな可能性を生み出す場として「ヤマワケアートギャラリー(以下、ヤマワケアートといいます)」が東京・六本木にオープンしました。

「若手アーティストが創作に専念できる環境をつくりたい」と語る大石主歩(ゆきほ)代表にヤマワケアートが目指す未来についてお話を伺いました。

〈聞き手・文=住友優太〉

 

アートを通して広がった交流が開廊のきっかけ

―はじめに、ヤマワケアート開廊に至った経緯についてお聞かせください。

 

もともとは現代アートの卸売をしてまして、将来的には自分でもギャラリーを持ちたいと考えて有望な若手アーティストをスカウトしている最中、経営者交流会のような会食の場でWeCapitalの松田代表とお会いする機会がありました。そこから私の別事業の方でちょっとお手伝いしていただいたことがきっかけで1~2ヶ月に1度くらい一緒にご飯を食べたりする間柄になったんです。その時によくアートの話題で盛り上がりまして、私が最も長くお取り扱いさせていただいている池内信介くんの作品を気に入っていただくことがすごく多かったので、スマホに保存してある池内くんの作品の画像をお見せしたところ、彼の作品は手に入れること自体が非常に難しいのですが、松田代表の周りのお友達に池内くんの作品を持ってる方が多くいらっしゃって、松田代表にも池内くんの作品をご購入いただきました。

 

〈ヤマワケアートで取り扱っている池内信介さんの作品〉

 

その時に松田代表から「ヤマワケアートっていう事業展開を考えているんだけど、アドバイザリー契約っていう形でアート部門のアドバイザーになってほしい」とお願いされたのがスタートでしたね。そこから「ヤマワケアート株式会社っていう会社を設立するんだけど、その社長になってくれないか」というオファーがありまして、こうしてヤマワケアートの代表をやらせていただいています。

 

 

店舗内装で取り入れたウォールペインティングがアートとの出会い

―現代アートの卸売はいつ頃から始められたのですか?

 

私の場合、現代アート作品の取り扱いを始めたのは5年ほど前からですが、それよりも前からアートとの接点はありました。複数の会社を経営しているんですが、最初に始めたのは店舗専門の内装業なんですよ。東京、大阪、福岡、特に地元福岡でたくさん内装をさせていただいてまして、その中でこの壁面はウォールペインティングで空間演出をしてみませんかといったご提案をしておりました。例えばスペインバルの店舗内装でしたら、躍動感のある闘牛のウォールペインティングをご提案させていただき、まだ駆け出しの若手アーティストに依頼していたので塗装で一面塗るのと比べても1.5~2倍ぐらいの金額ですることができました。

内装業社として他社とは違ったこともできるというプラスアルファを見せながら、好きなアートをそういった形で仕事に取り入れたのがアートとの最初の関わりです。それを含めるともう15年ぐらいになりますね。

〈大石さんが実際に内装を手掛けられたスペインバルの壁面〉

 

実は店舗内装業は1年ほど前からほとんど廃業しているような状態で、今後は現代アートの事業にシフトチェンジしていきたいなと思っているんですけど、そう思うようになったのは池内信介くんとの出会いが大きいですね。今もメインで取り扱っているアーティストの彼が、福岡出身の同い年で共通の友人も多いという繋がりがあって他にはない量を扱えているんですよ。

 

将来性豊かな若手アーティストの作品を取り揃えたい

―開廊してから数ヶ月が経ちますが、これまでの手ごたえはいかがですか?

 

認知が広がっていきつつあるんでしょうけれども、六本木はギャラリーが多いのでまだまだ施策が足りないなって思う部分がたくさんあります。これからは所属アーティスト一人ひとりにフォーカスして個展を開催したり、そういったイベントの企画に力を入れていきたいなと思います。

あとはInstagramを開設して2ヶ月半ぐらいになるんですけれども、ちょうど今日(2024年2月27日現在)フォロワーが100名を突破しました。コンサル等を一切使わずオーガニックで毎日投稿を続けていまして、興味を持ってくださる方がどんどん増えているという実感は、ご来廊していただくお客様の増加とともにこうしたSNSのフォロワーの増加という部分でも感じています。

 

〈ヤマワケアートのInstagram〉

 

―ヤマワケアートが特に意識して取り組んでいることはなんでしょうか?

 

私も買う側の立場になることはもちろんありますので、一番注力しているところでいうと、やはり手に入りにくい若手アーティスト、これから価値が上がる可能性が高いアーティストの作品をここでは手に入れられるようにしていきたいなと。それが根付くと頻繁に足を運んでくださるお客様が増えていくと考えております。理由としては世界的なラグジュアリーブランドのショップに正直これが買いたいっていうものがなくても足しげく通う方って結構いらっしゃるんですよね。そういう方たちはコンシェルジュと仲良くなって、他の人には出してくれない貴重なものをご紹介してくれるっていうような特別待遇を求めていらっしゃることが多いです。なのでそういった価値観の形成ですね。あのギャラリーには頻繁に行く価値があり、狙っているアーティストがいらっしゃったら誰よりも早くその作品を買えるようになりたいって1人でも多くの方に思っていただけるようなギャラリーにしたいと考えています。

 

 

若手アーティストが創作に専念できる環境をつくりたい

―近年盛り上がりを見せるアート業界ですが、その現状をどう感じていますか?

 

ここ数年見ておりますと、特にアジア圏で非常に盛り上がってきていて、市場はますます活況になり、コロナ禍が明けたあたりから爆発的に作品数が増え、また観に行く方、買いに行く方もすごく増えていらっしゃるので、私は今の現状はアート業界そのものに対して大きな魅力を感じています。またそれと同時に、いいアーティストがもっと増えてほしいとも思っています。私が最も力を入れていきたい若手アーティストの発掘という部分でいうと、特に20代のアーティストの中には世に出る前に経済的な理由で潰れていく方もかなり多くいらっしゃいます。うちで飾らせていただいているHOKIさんもまだ本格的に活動を始めて1年くらいなんですけれども、うちでもそうですし、他の展示会でも完売していってるんですよね。そういう方が経済的に安定して創作活動に打ち込める環境を作っていき、若手育成に注力していきたいなと思っています。

 

〈ヤマワケアートで取り扱っているHOKIさんの作品〉

 

―そういった若手アーティストの支援に向けて取り組んでいることはありますか?

 

ヤマワケアートは一般的なギャラリーと同じような仕組みで現在は営業しているんですけれども、将来的には若手育成という意味合いを込めて、ピックアップした所属アーティストの毎月の制作作品の半分とか3分の2を買い上げる契約、育成目的の買い取りをしたいと考えています。またあくまでたとえばですが、何かしらの仕組みを導入して資金を募り、アート作品の価値を投資家と共有し、価値が将来あがったところで売却してその利益を投資家はもちろんアーティストにも分配できるようなものや、売却までの間に貸出を行ってその貸出料の一部をアーティストの収入にするとか。通常ですと作品を買った段階でアーティストとしては一旦そこで収入は途絶えてしまって、何年後かに価値が上がろうがアーティスト本人に入ってくることは一切ないんですけれども、そこをアーティストにも利益還元する仕組みが生み出せないか考えているところです。

 

鑑賞者に高揚感と期待感を抱かせるアート作品

―大石さんにとってのアートの魅力を教えてください。

 

「なんでアートの事業してるの」「儲かるものなの」とか、そういったことをよく聞かれます。確かに儲からなければ事業として成立しないんですけれども、私はアートには2つの魅力があって、その2つが重なっていると考えています。まず1つは心の豊かさですね。やっぱりアート作品を見ながらお茶をしてるだけで、何かよくわからないけど高揚感が生まれる。さらにアートそのものが、将来的に価値が上がるんじゃないかっていう期待感や投資としての楽しさ、この2つが合わさった時に非常に幸福な気分になるっていう。おそらく私だけではないと思うんですけれども、そこがアートの一番の魅力かなと思います。

やっぱり成長しきってもう価格変動がほとんどないアーティストの作品を扱うってなると、ただの商品商材の売買だけになります。アートに携わっているという観点では、もちろんお金も大事ですけれども、自分が仕事として関わった上でアーティストが成功していくことで大きな幸福感を共有したいと考えています。

 

―特にどのような作品に魅力を感じますか? 

 

そうですね。現在お取り扱いさせていただいている6名のアーティストは、ギャラリーをオープンするまでにかなり悩み抜いて取り扱いを決めたアーティストですので、将来的な価値の高まりが期待できるという部分もありますし、抽象画や書道アート、ポップアートであったりするんですけれども、それぞれに観ていて非常に「楽しい」という魅力を私は感じていますね。

それは「かわいい」っていう部分であったり、抽象画や書道アートだと「躍動感」。やはり一瞬観ただけで思わず「おっ」と口に出してしまうような、そういうインパクトのある作品を基本的にお取り扱いしたいなと考えています。これは感覚的問題なので言語化は非常に難しいところではあるんですけれども、やはりインパクトのあるなしって非常に重要だと思うんですよ。ぱっと目に入った瞬間にインパクトがない作品に大金を出そうとは当然ならないでしょう。ただの投資対象でしたら、これまでの価格推移を見て全然興味ない作品でもとりあえず買っとこうっていう方もいらっしゃるのかもしれませんけれども、私は「楽しい事業」をしたいと思っていますので、そういう観点からいってもアートは非常に魅力的だなと思いますね。

 

Address住所

〒106-0032

東京都港区六本木5丁目1−3 ゴトウビルディング1st 1階

 

 

Hours営業時間

11:00~19:00

休廊日:毎週水曜日

 

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