アート&カルチャー
2024.07.10
東京・六本木のヤマワケアートギャラリーでは、2024年7月11日〜23日の期間で、気鋭の若手作家・HOKIによる個展「名前をつけたくなる日々」を開催いたします。
デビューからわずか2年足らずで国内外の多くの展示会に参加し、すでに高い評価を得ているHOKIの新作を中心とした25点が一堂に展示されます。
今回は当個展開催にあわせてHOKIにインタビューし、これまでの活動や今後の展望についてお話いただきました。
〈聞き手・文=住友優太〉
――19歳で絵を描き始めたということですが、どういうきっかけだったんですか?
高校卒業後に大手製薬会社に入社したんですけど、そこで初めて「歯車として生きていくのか、自分で何かを見出して人生楽しんでいくのか」っていう二択が出てきたんです。その会社に入れば一生安泰だと思って入社したのに、実際に働いてみると工場の製造ラインに立って、やれと言われた仕事をただこなす毎日に「歯車感」をすごく感じて、「この先40年もこれはできない。もっと人生を楽しむために自分で何かをしたい」っていう気持ちが芽生えたんですね。当時は本当にその「歯車感」が嫌で嫌で仕方がなくて、結局入社して1年経つ頃に退職しました。
ただその時は特に絵を描こうとは思ってなかったんですけど、当時古着が好きだったのでふらっと古着屋に立ち寄ったら、その店のオーナーが服に絵を描いてたんです。それを見た瞬間に「あ、かっこいいな。絵で食べていこう」って思いました。
――それは面白いきっかけですね。ちなみにそれまで絵を描いたりした経験はあったんですか?
絵を描くのは子供の頃から好きでしたね。人間の本能なのか、テレビでそういうシーンを観たのか、小学1年生の時に好きな女の子とのちょっとしたラブシーンを描いていたのを覚えていて、それが絵を描いた最初の記憶です(笑)。
あと母子家庭で裕福ではなかったのでゲーム機を買ってもらえなかったんですけど、お小遣いを貯めてポケモンのゲームの攻略本を買って、その攻略本を参考にしてポケモンの絵を描くことでポケモンを所有した気持ちになって満足してましたね。学校でも机に落書きしたり、とにかくずっと絵を描いてました。
――その時の経験は今の作品にも影響してますか?
そうですね。流行っていたゲームの影響で「ポケットモンスター」や「モンスターハンター」といったモンスター系の絵をよく描いてたのと、デッサンを習ってないのでアウトラインをしっかり描いてたんですよ。そのあたりは今の作品にも共通しているところですね。
――そこからどういうふうに活動をスタートされたんですか?
絵を描こうって思った半年後ぐらいにもう個展を始めちゃったんですよ。地元の富山で。
ただ完全に独学だったので当然ではあるんですけど、現代アートとはかけ離れてましたね。
最初はペン画とかで始めて、高くても1枚1万円ぐらいでギャラリーも挟まず、自分で会場を借りて自分で販売もしてたんですけど、その個展の売上で食べていけるかといったら無理だったので、また就職し直してそのお給料で富山で一、二を争うような大きな会場も借りました。要するに会社員の副業ですね。ただ個展を2、3回して、最初の開催から1年ぐらいが経ったときに、このままだと一生会社員をしながら副業で絵を描いている人生が見えてしまったんです。
そこで初めて現代アートについて勉強を始めて、何億とか何千万で取引されている作品があることやそういった世界を知ったのが21歳の時だったと思います。
――現代アートの世界を知ってから何か変化はありましたか?
そこから2年間はアートビジネスへの理解を深めながら、自分が本当に納得できる絵を見つけようとする毎日でしたね。もちろん独学なのでいろんな人に話を聞きに行きましたし、現代アートを知って、初めて自分の絵がポップアートというものに当てはまると気づいたので、KAWSをはじめとする世界的なアーティストから、日本のポップアートにいたるまで幅広く研究してました。その時も工場で働いてたんですけど、休み時間や休日もすべて費やしてましたね。
そして、23歳になった時に思い切って上京したんです。なんのツテもなかったんですけど、インスタを通していろんなアーティストの作品や技法を研究していたので、どのギャラリーがどのアーティストの作品を取り扱っているかは把握していました。
――上京してみて、実際に作品をご覧になった印象はいかがでしたか?
すぐにいろんなギャラリーに行って、ギャラリストの方とも話をしてみて「僕ならもっとやれそうだな」って肌で感じたんですよ。 作品を観てその作品のアーティストの方と肩を並べるというよりは、自分なら別の方向でもっとやれるんじゃないかなという気持ちですね。いろんな作品を目にする度に「僕ならこうするかな」って考えて、熱量を高めていました。
――HOKIさんの作品には「ツノダ」という非常にコンセプチュアルなキャラクターが登場しますが、ツノダはどういった経緯で生まれたんですか?
富山にいる時からある程度の方向性は決めていたんですけど、ツノダっていうキャラクターはまだ出てきていなくて。上京して多くの作品からいろんなことを吸収するのと並行して毎日喫茶店で絵を描いていたときも、とにかくキャラクターを生み出したいとは思ってたんですけど、「そこには意味を持たせないといけない、そして限りなく自分の分身であってほしい」っていうところで行き詰っていました。
半年ぐらい毎日毎日そうやって考えながら描いていた時に、ふといろんなアーティストの方を思い浮かべて、この人はここが強みだなとか分析してみたんです。そしたらやっぱり十人十色だったんですけど、次にじゃあ「自分の強みはどこだ?」ってなった時に、「そもそも強いアーティストってどういうことだ?」という新たな問いが出てきました。
――「自分の強みは何か」と自問自答していると、「そもそも強いってなんだろう」という根源的な問いに行きついたということですか?
そうです。強さとは一体何だろうと突き詰めた時に、これをコンセプトとして現代アートに投げかけようと思いました。そこでまた強い絵ってなんだろうと探求していく中で、初めて動物の強さ、自然界の強さに着目したんです。強いものって色々ありますし、例えば牙や爪とか、危険信号を発する時に威嚇するような感覚も強いと捉えられるんですけど、僕はツノに着目したんですよ。ツノっていったら鬼や妖怪にもなるし、 ツノが生えてる動物もいるので、僕にとってツノが外見的に一番目立つものだったんです。
アイベックスっていうヤギ科の動物がいるんですけど、そのアイベックスのツノが一番たくましい「強さの象徴」だと僕は捉えて、それを参考にツノだけを描いてたんですよ。そしてポップなテイストに寄せたツノをまず完成させて、そのツノを起点にキャラクターの目や体型を探り始めて誕生したのが「ツノダ」だったんです。
――なるほど、ツノは「強さの象徴」なんですね。ただ作品を観ていると、ツノダは確かに立派なツノを持っていますが、いつも気怠そうな表情をしていますし、全体の色彩もくすんだ色味をベースにしているので、HOKIさんにとっての強さには何か逆説的な意味があるように感じました。
強さというと、ポジティブな意味で捉えられることが多いですが、簡単に一括りにできるものではないと思うんですよ。例えば、格闘技だとリング上で勝った者が強く、敗れた方は弱いと言われそうですけど、敗者にもそこにたどり着くまでいろんなドラマがあったはずですし、その中にその人なりの強さがあったと思うんですよ。必ずしも負けたから弱いのではなく、その敗者だって強い人だと思うんです。
僕はあまり派手な生活はしたくなくて、平凡に過ごしたいっていつも思っているんですけど、その根底には「平凡な日常でも自分なりの幸せを生み出していける」という信念があるんです。道端でハグをしているカップルを見た時に「あ、幸せもらったな」とかでもいいんですよ。そんな小さなイベントが本当は日常にたくさんあふれているのに、大抵は何も思わないじゃないですか。けどそういったことに一つひとつ目を向けて、「この人はこういう強さを持ってるな」「こういう幸せがあるな」っていうふうに考えれば、平凡な日常にも自分なりの山や谷ができると思うんです。自分の平凡な日常に何かを見出して、幸せを生み出していくことが僕なりの強さかなって思うんですよ。作品にはすごい気怠そうな日常を繰り返し描いているんですけど、オブジェクトや出てくるキャラクターは少し不可解だったり、派手ではないけど「これ日常の中で拾いたいよね」って思うものを投影しています。(後編へ続く)
【経歴】
2017〜活動開始(19歳)
2023.1 Hello Gallery Tokyo グループショー 東京
2023.5 ART BUSAN 2023 韓国
2023.6 ロイドワークスギャラリー 『One FACE 2023』 東京
2023.7 Hello Gallery Tokyo 個展 東京
2023.8+ART GALLERY グループショー 東京
2023.9 ART SHENZHEN 2023 中国
2024.3 GINZA SIX in Art glorieux グループショー 東京
2024.5 ART GALLERY UMEDA グループショー 大阪
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〒106-0032
東京都港区六本木5丁目1−3 ゴトウビルディング1st 1階
営業時間
11:00~19:00
休廊日:毎週水曜日
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