用語解説
2024.04.23
「匿名組合契約(通称:TK契約)」は、知っておきたい投資専門用語の一つです。
投資を通じて収益を得る仕組みには様々な契約が存在します。
匿名組合契約は、投資ファンドにおいて投資家と事業者との2者間で結ばれる契約であり、ベンチャーファンドや不動産小口化商品への投資などにおいて結ばれている契約形態です。現代では、主に多様な投資商品を生み出すことに必要不可欠な契約となっています。
本記事では、匿名組合契約がどのような契約なのか、そのメリット・デメリットなどをわかりやすく解説します。
匿名組合契約において、投資家は匿名組合員と呼ばれ、事業者(営業者)の営業のために出資をし、出資を受けた事業者はその営業から生じる利益を分配します(商法第535条)。
匿名組合契約は、投資家と事業者の間で交わされる2者間の契約に限られ、3者間以上の契約は認められていません。ただし、事業者は複数の投資家と契約を結ぶことができます。
出資金は、事業者を通じて取引相手の事業やプロジェクトのファンド内にて運用されます。
設定された運用期間満了後、ファンドの運用が成功した場合には元本の償還とともに収益が投資家に分配され、匿名組合契約が終了となります。投資家(匿名組合員)は、このようにして出資に対する利益を得ることができます。
匿名組合契約の権利(出資持分)は、第二項有価証券に分類されています。株式、債券や投資信託といったメジャーな投資商品ではなく、金融商品取引法の第2条2項で定められているみなし有価証券が「第二項有価証券」と呼ばれるものです。
事業型ファンドや不動産を証券化したファンドなどにおいては、匿名組合契約が一般的に利用されています。
投資型クラウドファンディングの中では、貸付型クラウドファンディングや不動産クラウドファンディングにおける主要な契約形態となっています。
様々な投資ファンドで利用されている匿名組合契約ですが、そのメリットとデメリットはどのようなものがあるのでしょうか。ここからは主なポイントとともにご紹介します。
・匿名で出資することができる
匿名組合契約は、投資家と事業者の間における2者間契約のため、投資家は匿名になります。そのため、取引先などの第三者は誰が出資しているかといった情報を知ることができません。営業者と取引先との取引で使用される名義は、営業者の名義となります。
よく比較されるのは、不動産特定共同事業における契約として民法に定められる「任意組合型」と「匿名組合型」の2種類の契約です。任意組合型では、投資家と事業者との間の2者間契約ではなく、複数の投資家が金銭や現物、労務などにより小口化された不動産に出資をし、共有で持分の権利を購入して事業を行います。
・二重課税が発生しない
二重課税は、税金対象1つに対して、2つ以上の税金が課せられることです。
法人が行う事業に投資をすると、利益が生じた際に事業運営会社で税金計算を行い、法人税などを差し引いてから、投資家に配当金が分配されます。
一方、配当金を受け取った投資家にも税金が発生(株式などの保有割合が100%の会社を除く)し、配当の分配前に1回、分配後に1回と、税金の対象は1つであるにもかかわらず、合計2回税金が課されることになります。
しかし、これに対して、匿名組合契約の場合には、匿名組合は法人ではないため、その営業によって獲得された利益に対して直接課税されることはなく、匿名組合員に対してかかる利益が分配された時点で初めて課税されることとなります。投資家に分配された配当金への課税(総合課税)は、1回のみとなります。
・リスクを抑えられる
前述にある任意組合契約では、任意組合の組合員は、任意組合の債権者に対し、無限の責任を負う事になります。
これに対して、匿名組合契約において、取引先の事業が失敗するなどして大きな債務が生じた場合、匿名組合員の責任の範囲は限定されており、出資した金額以上の責任を負うことはなく、追加出資する義務もありません。
ただし、匿名組合員が自己の名前や商号を営業者の商号に使用することを許諾した場合、その使用以後に生じた債務については営業者と連帯して責任を負う義務があります(商法第537条)。気をつけましょう。
・手間がかからない
出資した投資家は、事業者が行う営業行為に関わる必要はないため、契約したらあとは満期を迎えるまで待つのみです。「ほったらかし投資」といった表現で広告されている投資商品などはその一例です。そのため、株式や為替のように株価やレートについて日々チェックするような必要がありません。
以上が匿名組合契約の主なメリットです。
なお、上場株式や債券などのメジャーな金融商品以外にも、新しいビジネスのためのモノやコトに対して投資することで、より多くの企業の資金調達が実現できる点は、社会的なメリットとしても考えられるでしょう。
次に、デメリットについても見ていきましょう。
・流動性が低い
株式や債券などと違い、匿名組合契約の出資持分(事業に関する権利や所有権)を第三者や他の匿名組合員と取引・売買することは容易にできません。
譲渡可能なセカンダリー市場がないため流動性が低く、契約内容次第でありながらも基本的には相対取引でしか持分の譲渡はできません。譲渡には営業者による承認が必要となるケースも多いです。
銀行のように、必要な時に出金するということはできず、出資した元本や分配金などは規定されている満期終了後まで戻りません。
・途中で解約ができないことがほとんど、元本割れのリスクも
匿名組合契約の流動性が低い理由として、契約途中での解約の難しさが挙げられます。
たとえば、事業が失敗するなどの理由で損失が生じた場合、投資家は有限責任ながらも投資した資金を失うリスクは通常の投資商品同様に存在します。
そのような事態を避けるためにも、契約内容、事業者の信頼性や実績をしっかりと確認することが重要です。
インターネットの普及などを背景に、新しい形の投資ファンドが生まれ、投資家に利益を還元するための形式(ビークル)の多様化が進んでいます。
関連する法律が整備されルールが守られることが前提ですが、今までになかったような投資ファンドが生まれることで、株式や債券といったメジャーな投資商品の他にも投資対象は拡大します。その結果、資金調達の成功事例が増えることによる経済の発展、そして個人の資産形成にも役立ちます。
投資家の責任が有限であり、運営コストが抑えられるなどの理由から、近年では、不動産の証券化に加え、太陽光のような再生可能エネルギーファンド、競走馬ファンド、レバレッジドリース、オルタナティブアセット(ワイン・絵画等)などにおいて匿名組合契約が利用されています。
出典:金融審議会金融分科会第一部会(第26回)議事次第 資料2-2
上記のように金融審議会でも、様々な事業ファンドが法整備の必要事項として審議されました。
「世界大百科事典(旧版)」によると、匿名組合の原形は、10世紀ごろ地中海沿岸の都市において海上事業を営む企業が利用していた契約といわれています。投資家が事業者に対して、商品、金銭や船舶などを委託し、その事業者が海外に渡り貿易を行った利益を分配するという「コンメンダ契約」から発生したといわれています。
日本においては、匿名組合契約の原初的な形態が江戸時代に起源を持つ企業組織において存在していました。「近代日本経済の父」と呼ばれ、今年、新一万円札に選ばれた渋沢栄一氏もビジネスにおいて多く利用しいたそうです*。投資を受け入れる企業や事業者が限られた資本を効率よく集め、運用する手段として広く利用されてきました。
*参考:島田 昌和 (文京学院大学 経営学部 教授)「草創期の経営者・渋沢栄一:出資と企業育成」
匿名組合契約は、投資ファンドにおいて投資家と事業者との2者間で結ばれる契約であり、ベンチャーファンドや不動産小口化商品への投資などにおいて結ばれている契約形態です。
投資の仕組みを理解して、ご自身にあった適切な投資商品を選択するようにしましょう。
Supervisor
監修者
水野 崇
Mizuno Takashi
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