マネー&ビジネス

2025.10.03

投資と生活費のお金の範囲~無理なく続けるための資金管理術

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目次

 

投資を始める上で最も大切なことは、日々の生活を脅かさない範囲を確保することです。この範囲が不明確なまま投資に踏み出すと、予期せぬ事態で生活が破綻するリスクが高まります。投資で成功するためには、まず生活基盤をしっかりと固めることが何よりも重要です。

 

生活防衛資金の重要性とその役割

「生活防衛資金」とは、失業、病気、災害といった不測の事態に備え、生活費を賄うために準備しておく資金のことです。これは、マイホーム購入や老後資金といった特定のライフイベントのための「貯金」とは目的が異なります。

 

投資で損失を出した際に生活費に手を出してしまう状況を避けるためにも、投資に集中できる環境を整える上で、まず生活防衛資金を確保することが重要です。雇用保険や民間保険に加入していても、給付まで時間がかかる場合があるため、当面の生活費を賄うための生活防衛資金は必須と言えます。

この資金があることで、市場が下落した際にも慌てて投資を売却する必要がなくなり、長期的な投資戦略を貫くことができるようになります。つまり、生活防衛資金は投資成功の土台となる重要な要素なのです。

生活防衛資金の具体的な目安額

 

生活防衛資金の目安は、個人の職業や家族構成によって異なります。一般的には「生活費の3か月~6か月分」が推奨されています。これは、自己都合退職時の失業保険の給付制限期間(2~3か月)や、給付額が給料の50~80%であることなどを考慮したものです。(ただし、失業保険の給付制限期間は2025年4月から1カ月に短縮されています)。

 

世帯別の目安では、以下が挙げられます。

 

独身一人暮らしの場合:生活費の3か月~半年分が目安となります。

 

夫婦二人暮らし(DINKs世帯)の場合:生活費の3か月~半年分。共働きの場合は一方が働けなくても収入があるため、割合を減らすことも検討できます。

 

子どものいる家族の場合:生活費の6か月~1年分が推奨されます。子どもの教育費や、親の就職活動への影響などを考慮し、多めに準備すると安心です。

 

フリーランスの場合:会社員に比べて社会保障が手薄なため、最低でも6か月分、可能であれば1年分の生活費を確保することが推奨されます。収入の不安定さを考慮し、より厚い備えが必要です。

 

生活防衛資金の賢い貯め方と預け先

 

生活防衛資金を効率的に貯めるには、計画的な貯蓄が重要です。

 

毎月の固定費を見直す:家賃、水道光熱費、通信費、保険料、サブスクリプションサービスなど、毎月発生する固定費を削減することで、生活防衛資金に回せるお金を増やせます。

 

無理のない範囲で先取り貯金する:給料が入ったら、まず決めた貯蓄額を先に確保し、残った金額で生活する「先取り貯金」を実践することで、着実に目標額に近づけます。

 

ボーナスの一部を貯金に回す:毎月の貯金に加えて、ボーナスの一部を生活防衛資金に充てることで、より早く目標額に到達できます。

 

収入アップの検討:昇進、転職、副業などで収入源を増やすことも、貯蓄を加速させる一つの方法です。

 

生活防衛資金の預け先は、万が一のときにすぐに引き出せる流動性と、元本が保証されている安全性が重要です。

 

元本保証の「定期預金」が鉄則:生活防衛資金は、資産が目減りするリスクが低く、緊急時にすぐ引き出せる定期預金で保有するのがおすすめです。他の貯蓄と明確に区別するため、目的別の銀行口座を活用するのも良い方法です。

 

NISAは長期的な資産形成を目的とした制度であり、元本割れのリスクがあるため、突発的な出費に対応するための生活防衛資金の預け先としては適していません。

 

資産形成の基本~お金を4つの種類に分けて管理する

 

ファイナンシャルプランニングでは、人生のお金を管理するために、目的に応じて資金を4つに分けることを推奨しています。この考え方を理解することで、より効率的な資産管理が可能です。

 

1.ふだん使うお金

日常生活費として使うお金です。生活費の約1.5か月分程度を、生活費決済用の普通預金口座に入れておくのが目安です。収入ではなく、生活費をベースに考えることがポイントです。この資金は最も流動性を重視し、いつでもすぐに使える状態にしておく必要があります。

2.とっておくお金(万が一に備えるお金)

大きな病気やケガの医療費、突然のリストラによる生活費など、不測の事態に備えるお金です。目安として、生活費の1年程度を準備しておくとよいでしょう。このお金も、必要な時にいつでも引き出せるよう、普通預金や定期預金といった元本保証の商品で管理することが推奨されます。

3.もうすぐ使うお金(ライフイベントに備えるお金)

向こう3年以内くらいの比較的近い将来に予定しているライフイベントがある場合に、それに向けて準備しておくお金です。結婚、自動車の買い替え、住宅のリフォーム、旅行費用などが該当します。お金のかかるライフイベントを予定していない場合は、特に準備する必要はありません。この資金も、いつでも使えるように、普通預金や定期預金、個人向け国債などで管理するのがおすすめです。

4.老後に使うお金(将来に向けた資産形成)

働いて収入のある現役時代に、将来の自分や家族のためにとっておくお金です。人生100年時代と言われる現代では、公的年金収入のみに頼って生活するのは心許ないため、現役時代から計画的に準備することが大切です。

この「老後に使うお金」は、10年〜数十年先に使うことになるため、株式などの有価証券への投資も選択肢の一つとなります。ここでは、ある程度のリスクを取ってでも資産を増やすことを視野に入れる時期と言えます。

自分に合った「投資と預貯金の割合」を見つける

生活防衛資金を確保した上で、次に考えるべきは、預貯金と投資のバランスです。この割合は、個人の財務状況、将来の目標、リスク許容度によって異なります。

一般的な割合と世帯・年代別の傾向

預貯金と投資の適切な割合の目安は、「貯金:投資=100%~70%:0%~30%」です。ただし、これはあくまで一般的な目安であり、ライフステージに合わせて割合を変えることが重要です。投資の割合が50%を超える場合は、生活に影響が出ないか慎重に検討する必要があります。

 

生命保険文化センターによると、金融商品の種類別に見ると、単身世帯では「預貯金」が最も多く、全体の約4割を占めています。次いで多いのが「株式」、その後に「投資信託」が続きます。

 

一方、2人以上世帯においても「預貯金」の割合が最も高く、全体の4割以上を占めています。次いで「株式」、そして「生命保険」と「投資信託」がほぼ同水準で続いています。

目的とリスク許容度に応じた3つの資産配分モデル

 

個人の状況に合わせて、以下のモデルを参考に資産配分を考えられます。

 

バランス型:預貯金と投資がそれぞれ50%ずつの場合を指します。現役世代が中長期(5~10年)で資産を形成・運用するのに適しており、リスクと安全性のバランスを取りながら成長機会も得られます。

 

安全性重視型:預貯金が70%で投資が30%の場合です。老後資金の運用や比較的短期(3~5年)の資金需要に適しており、安全性を重視しつつ緩やかに資産を増やしたい場合に有効です。

 

積極運用型:預貯金が30%で投資が70%の場合です。若年層の長期投資や、余裕資金の運用に適しており、高いリターンを目指しながら長期的に資産を増やしたい場合に選択されます。

 

投資に回すのは「余剰資金」からが鉄則

投資を行う上で最も重要な原則は、今すぐ使う必要のないお金、つまり生活に影響のない「余剰資金」を投資に回すことです。

 

「いつまでに」「いくら」必要なのかを決める:預貯金や投資を始める際は、「逆算思考」をもって目標を具体的に設定することが重要です。例えば、「5年後に住宅購入のために頭金をいくら貯めるか」といった明確な目標を立てることで、計画的な資金配分が可能になります。

 

金融商品を目的別に使い分ける:日常の生活資金や万が一に備えるお金は、普通預金や定期預金といった流動性の高い商品で確保し、余剰資金は投資商品に割り振ることで、生活水準を保ちながら資産形成を行うことができます。

 

無理なく投資を続けるための実践的な方法

生活防衛資金を確保し、適切な資金配分を決めたら、いよいよ具体的な投資の検討に入ります。無理なく投資を続けるためには、投資先の選び方や運用戦略も重要です。

 

初心者におすすめの投資先

 

投資初心者には、比較的少額から始められ、リスク分散がしやすい商品がおすすめです。

 

外貨預金:日本円を外国通貨に換えて預金する商品で、日本の金利より高い傾向があります。為替差益を狙える一方、為替変動による元本割れリスクも考慮が必要です。

 

投資信託:投資家から集めたお金を、ファンドマネージャーと呼ばれるプロが株式や債券などで運用し、その利益を投資家に還元する商品です。NISAではつみたて投資枠年間120万円、成長投資枠年間240万円(非課税保有限度額の総枠1,800万円(うち、成長投資枠1200万円))の運用益が非課税になるため、長期・積立・分散投資に適しており、初心者には特におすすめです。

 

iDeCo(個人型確定拠出年金):原則として、20歳以上60歳未満の人が加入できる私的年金制度で、運用益が非課税になるだけでなく、掛け金が全額所得控除されるなど、税制面で大きなメリットがあります。月々の掛け金は最低5,000円からで、老後資金の形成に適しています。

 

投資金額に応じた運用戦略

 

投資金額の大小によって、適した運用方法があります。

 

少額(50万円未満)の場合:「時間の分散」を心がけましょう。一度に全額を投資するのではなく、毎月少額ずつ積立投資を続けることで、高値掴みのリスクを避け、着実に資産を形成できます。

 

まとまった資金(50万円以上)の場合:NISAの活用を検討しましょう。非課税枠を最大限に活用し、売買益や配当金を非課税で受け取れるメリットは大きいです。

 

高額(100万円以上)の場合:「資産の分散」も重要になります。投資資金を一つの金融商品に集中させるのではなく、投資信託、株式、外貨預金など、異なる資産クラスに分散して投資することで、リスクを抑えながら安定した運用を目指せます。

 

定期的な見直しとリバランスの重要性

一度決めた投資と貯金の割合も、資産状況や市場環境の変化、あるいは自身のライフイベント(結婚、転職、引越しなど)に応じて見直すことが大切です。

運用を続けると、投資した資産の価値が変動し、当初設定した貯金と投資の割合がずれてくることがあります。このような場合に、定期的に資産配分を元の状態に戻す「リバランス」を行うことで、リスク許容度を超えない範囲で、計画通りの資産形成を維持できます。年1~2回の定期的な見直しに加え、大きなライフイベント前後も良いタイミングです。

 

まとめ 安心して資産形成を進めるために

 

投資を始める上で最も大切なお金の範囲は、万が一に備える「生活防衛資金」をしっかりと確保することにあります。この資金は、生活費の3か月~1年分を目安とし、普通預金や定期預金といった元本保証の安全な形で管理することが鉄則です。

 

そして、お金を「ふだん使うお金」「とっておくお金」「もうすぐ使うお金」「老後に使うお金」の4つに明確に分け、それぞれの目的に合った金融商品で管理することが、無理のない資金管理の第一歩となります。投資は、これらの生活に必要な資金を確保した上で、あくまで「余剰資金」で行うべきです。

 

年齢やライフステージ、リスク許容度に応じた貯金と投資の割合を設定し、NISAやiDeCoといった税制優遇のある積立投資を積極的に活用することで、リスクを抑えながら長期的な資産形成を目指すことができます。

 

最も重要なのは、無理をしないことです。生活が苦しくなるほど投資に資金を回してしまうと、本末転倒となってしまいます。まずは生活基盤をしっかりと固め、その上で余剰資金を使って段階的に投資を始めることで、精神的な余裕を保ちながら資産形成を進めることができるでしょう。

 

定期的な見直しとリバランスを忘れずに行い、柔軟に計画を調整しながら、安心して資産形成を進めていきましょう。投資は短期的な成果を求めるものではなく、長期的な視点で取り組むことが成功への鍵となります。

Writer&Supervisor

執筆&監修者

山下 耕太郎

Koutarou Yamashita

一橋大学経済学部卒業後、証券会社で営業、マーケットアナリスト、先物ディーラーを経て個人投資家/金融ライターに転身。ライター歴6年、投資歴20年以上。保有資格は証券外務員一種。マーケットアナリスト時代は、日経CNBCに出演。そして、ディーラー時代は主に日経225先物・オプションを取引。現在は個人投資家として株式、先物、FX、CFDなどを取引している。また、金融ライターとして、上場企業、金融機関などで年間300本以上の記事を執筆・監修している。
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