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2025.06.13

サステナブル投資~持続可能な未来と収益の両立を目指して

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目次

サステナブル投資とは

サステナブル投資とは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)要素を考慮しながら経済的リターンを追求する投資アプローチです。この手法は企業の短期的な利益だけでなく、事業活動が持続可能な社会構築にどう貢献するかを評価します。

投資家はさまざまな戦略を活用しています。環境に悪影響を与える企業を投資対象から除外する「ネガティブ・スクリーニング」、ESG評価の優れた企業を選択する「ポジティブ・スクリーニング」、対話を通じて企業のサステナビリティ改善を促す「エンゲージメント」、社会・環境課題の解決に直接貢献する「インパクト投資」などがあります。

サステナブル投資は企業のリスク低減と長期的成長機会の創出につながるとされ、投資家にとっても財務的メリットがあると認識されています。近年、その重要性が急速に高まり、多くの機関投資家がESG要素を投資判断に組み込む動きを加速させています。

サステナブルファイナンスとの関係

サステナブルファイナンスは、ESG要素を考慮した金融活動全般を指し、持続可能な経済発展を促進するための幅広い金融手法です。これにはESG投資、グリーンボンド、サステナビリティ・リンク・ローン、ソーシャルボンドなど多様な金融商品が含まれます。サステナブル投資はその中核的要素であり、企業のESGパフォーマンスを分析し、資本配分を通じて環境保全や社会問題解決に貢献します。

サステナブルファイナンスの普及により、金融市場全体にESGの視点が浸透し、企業は事業戦略や経営判断においてサステナビリティを重視するよう促されます。この潮流は企業の長期的価値創造を支え、社会全体の持続可能性向上に寄与すると期待されています。

 

サステナブル投資の手法

それでは、代表的なサステナブル投資について解説します。

 

ネガティブ・スクリーニング

ネガティブ・スクリーニングは、特定の倫理的・社会的・環境的基準に合わない企業や業種を投資対象から除外する手法です。これはESG投資の主要手法の一つで、社会的に問題がある事業分野を排除し、投資ポートフォリオの倫理性や持続可能性向上を目指します。

具体的な除外対象としては、タバコ産業(健康への有害性)、ギャンブル産業(依存症や社会問題)、化石燃料産業(気候変動への影響)、武器製造業(紛争助長の可能性)などが含まれます。

この手法の起源は1920年代にさかのぼり、米国の宗教団体が教義に反する産業を投資対象から除外したことに始まるとされています。投資家がどの手法を選ぶかは、投資哲学や目標、リスク許容度によって異なりますが、ネガティブ・スクリーニングは投資先の倫理性や社会的責任を重視する基本的アプローチとして、広く採用されています。

 

ポジティブ/ベストインクラス・スクリーニング

ポジティブ・スクリーニング(ベスト・イン・クラス・スクリーニング)は、ESG評価が高い企業を選別して投資対象とする手法です。同業種内でESGへの取り組みが優れた企業を積極的に選び出すことで、持続可能性の高い企業への投資を促進します。企業の長期的成長性と社会的責任の両立を目指し、投資家にとってもリスク管理やリターン向上につながるとされています。具体的には、環境への配慮、社会的貢献、健全なガバナンス体制を持つ企業が評価され、投資対象となります。

 

ESGインテグレーション

ESGインテグレーションは、財務情報と環境、社会、ガバナンスの要素を統合し、投資判断を行う手法です。これにより、企業の財務リスクや長期的成長性を包括的に評価できます。ESG要素を考慮することで、投資家はリスク管理を強化し、持続可能な成長を追求する企業を選別できます。特に機関投資家において、ESGインテグレーションは投資戦略の重要要素として位置づけられています。

 

サステナビリティ・テーマ投資

サステナビリティ・テーマ投資は、クリーンエネルギーや持続可能な農業など、特定のテーマに焦点を当てた投資手法です。具体例として、再生可能エネルギー、電気自動車、水資源保護事業などが挙げられます。これらの投資は環境への悪影響緩和と持続可能な社会実現を目的としています。再生可能エネルギー分野では風力や太陽光発電の拡大、電気自動車の普及による二酸化炭素排出削減、水資源保護事業では浄水技術革新や効率的水利用が推進されています。これらのテーマへの投資は長期的成長が期待できるだけでなく、社会的責任を果たす手段としても注目されています。

 

インパクト投資

インパクト投資は、社会的・環境的課題解決を目的としつつ、財務的リターンも追求する投資手法です。具体例として、低所得者向け住宅開発や地域開発プロジェクトが挙げられます。これらは住居提供や地域活性化を通じて社会的課題解決に寄与します。米国では低価格住宅分野でのインパクト投資が住宅問題への対応として注目されており、日本でも社会的インパクト不動産の取組事例が報告されています。これらの投資は社会的課題解決と投資リターンの両立を目指し、持続可能な社会実現に向けた重要な手段となっています。

 

議決権行使・エンゲージメント

株主として企業と対話し、ESGの取り組みを促進することは、持続可能な社会実現に不可欠です。スチュワードシップ・コードに基づくアクティブ・オーナーシップとして、議決権行使やエンゲージメント(目的を持った対話)を通じて、投資先企業の企業価値向上や持続的成長を促します。これにより長期的な投資リターン拡大を図るとともに、社会全体の持続可能性にも貢献します。

 

 

サステナブル投資のメリット

サステナブル投資は、ESG要素を考慮して行う投資手法です。企業の持続可能性が長期的リターンや企業価値に直結するとの認識が広がり、注目されています。

 

長期的なリターンの向上

ESG課題に積極的に取り組む企業は環境規制や社会的要請に適応しやすく、リスク低減と安定成長が期待できます。再生可能エネルギーへの投資や労働環境改善に注力する企業は、将来的な法規制強化や社会的批判によるリスクを回避しやすくなり、投資家は長期的リターン向上を期待できます。

 

企業価値の向上

ESG要素の充実は企業のブランドイメージを高める効果があります。環境保護や社会貢献に取り組む企業は消費者や取引先からの信頼を得やすく、市場での競争力を強化できます。さらに社員満足度向上や企業文化強化にもつながり、経営の安定化を促進します。ダイバーシティ推進や公正な労働環境整備が、社員のモチベーションや定着率を高める要因となります。

 

社会的インパクト

サステナブル投資は環境問題や社会問題への積極的関与を促し、持続可能な社会実現に向けた資本の流れを最適化します。再生可能エネルギーやクリーンテクノロジー分野への投資は環境負荷低減やエネルギー効率化を推進し、社会全体の持続可能性を高めます。また、社会的課題に取り組む企業への投資は貧困削減や教育普及など、広範な社会的利益をもたらします。

 

 

サステナブル投資の動向

サステナブル投資は世界各地で注目を集めており、地域ごとに特徴ある取り組みが見られます。

 

欧州における動向

欧州はサステナブル投資の先進地域です。2020年にEUタクソノミー規則が施行され、持続可能な経済活動の明確な定義が導入されました。

 

 

出典:日本貿易振興機構(ジェトロ)

 

これにより投資家や企業はグリーン活動を判断しやすくなり、サステナブルファイナンスが促進されています。さらにサステナブルファイナンス開示規則(SFDR)の導入により、金融商品のESG関連情報の透明性が向上し、投資家の信頼性が高まっています。これらの規制強化により、欧州のサステナブル投資ファンドは他のファンドが純流出に見舞われる中でも資金の純流入を維持し、相対的に堅調な推移を示しています。

 

米国における動向

米国ではサステナブル投資への関心が高まる一方、政治的影響も見られます。トランプ大統領の再選により反ESG政策が推進される見通しで、ESG投資ファンドからの資金流出が続いています。2024年には米国のサステナブルファンド市場で約200億ドル(約3兆100億円)の資金流出が発生し、前年を130億ドル上回りました。ただ、このような状況下でも再生可能エネルギーやクリーンテクノロジーへの投資は増加しています。世界のエネルギー投資総額は2024年に初めて3兆ドルを超え、そのうち約2兆ドルが原子力など、クリーン・エネルギー技術に充てられる見通しです。

 

日本における動向

日本では年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がESG指数を採用したことを契機に、国内機関投資家の関心が高まっています。

 

 

出典:GPIF

 

また、スチュワードシップ・コードの導入により企業と投資家の対話が活発化し、サステナブル投資の推進が図られています。サステナブルファイナンス有識者会議の報告書では、サステナブルファイナンスが経済・社会の成長・持続可能性を高め、幅広い投資家にとって長期的な投資収益実現の可能性があると指摘されています。

 

出典:GPIF

 

これらの取り組みにより日本のサステナブル投資残高は増加傾向にあり、2024年3月末には、625.6兆円に達し、総運用資産の63.5%を占めました。

 

 

サステナブル投資の課題

サステナブル投資はESG要素を考慮した投資手法として注目されていますが、いくつかの課題が存在します。

 

情報開示の充実

企業のESG情報の標準化が進んでおらず、透明性に欠ける点が指摘されています。日本企業の多くはサステナビリティ戦略や計画を有していますが、それらがビジネス戦略と関連付けられている割合は55%にとどまります。また、特定したマテリアリティ(重要課題)に対する中・長期の定量的目標値を設定している企業は60%、開示内容と特定したマテリアリティとの整合性を図っている企業は35%にとどまり、情報開示の質と透明性向上が求められています。

 

専門人材の育成

ESG投資に精通した人材の不足も大きな課題です。金融庁の調査によれば、約半数以上の金融機関がサステナブルファイナンスのいずれかの分野で人材不足と回答しています。特に気候変動、生物多様性、人権、サーキュラーエコノミーなどのESG課題に対応できる人材が不足しており、社内での人材育成や中途採用強化が必要とされていますが、適切な人材確保が難しい状況です。

これらの課題解決には、ESG情報開示の標準化と透明性向上、そして専門人材の育成が不可欠です。企業は戦略とサステナビリティ施策を一貫させ、具体的な目標設定と進捗状況の開示を行う必要があります。同時に教育プログラムの拡充や専門人材の採用を通じて、組織全体のESG対応力を高めることが求められています。

 

 グリーンウォッシュの防止

環境配慮をうたう「地球にやさしい」や「サステナブル」といった表現が、実態を伴わないまま使われるケースが増えています。こうした行為は「グリーンウォッシュ」と呼ばれ、実際以上に環境に配慮しているように見せることが問題視されています。欧州では法整備が進み、企業が環境主張を行う際は、第三者による検証と根拠の提示が義務付けられる見通しです。日本でも、消費者庁が誤解を招く環境表示に対して取り締まりを強化しています。消費者や投資家が誤った情報を信じてしまうと、本当に環境に取り組む企業が埋もれ、環境問題の解決が遠のくおそれがあります。グリーンウォッシュを見極めるには、信頼できる知識が不可欠です。

 

まとめ

 

サステナブル投資は、環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)要素を考慮しながら経済的リターンを追求する投資アプローチです。ネガティブ・スクリーニング、ポジティブ・スクリーニング、ESGインテグレーション、テーマ投資、インパクト投資、エンゲージメントなど様々な手法があります。

 

この投資方法は長期的リターンの向上、企業価値の向上、社会的インパクトの創出といったメリットがあります。欧州ではタクソノミー規則や開示規則の導入で先進的に進展し、日本ではGPIFのESG指数採用やスチュワードシップ・コードの導入で普及が進んでいます。一方で米国では政治的影響により変動が見られます。

 

今後の課題としては、ESG情報開示の標準化不足、専門人材の不足、グリーンウォッシュ(表面的なESG対応)などがあり、これらの解決が持続可能な社会と経済的リターンの両立には不可欠でしょう。

Writer&Supervisor

執筆&監修者

山下 耕太郎

Koutarou Yamashita

一橋大学経済学部卒業後、証券会社で営業、マーケットアナリスト、先物ディーラーを経て個人投資家/金融ライターに転身。ライター歴6年、投資歴20年以上。保有資格は証券外務員一種。マーケットアナリスト時代は、日経CNBCに出演。そして、ディーラー時代は主に日経225先物・オプションを取引。現在は個人投資家として株式、先物、FX、CFDなどを取引している。また、金融ライターとして、上場企業、金融機関などで年間300本以上の記事を執筆・監修している。
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