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2024.07.17

円安時代の不動産投資戦略:1ドル150円台はチャンス?ピンチ?

2024年になって1ドル150円台後半まで円安が進行しており、輸入コストの増加や実質賃金の低下など、日本経済に大きな影響を及ぼしています。

 

不動産投資においても、円安の影響は無視できません。本記事では、円安が不動産投資に与える影響について、建築費の上昇海外投資家の購入意欲拡大インフレによる住宅ローン金利上昇の3つの観点から詳しく解説します。

 

円安による建築費の上昇はどうなる?

近年の急激な円安により、日本の不動産市場では建築費が大幅に上昇しています。その主な理由は、日本が建築資材の多くを海外からの輸入に頼っているためです。戸建住宅は主に木材が使用されますが、大規模なマンションでは鉄鋼が主な建材となります。鉄鋼の価格は年々上昇しており、マンションの建設コストにも影響を与えています。その結果、新築マンションの建築コストが上昇しているのです。

 

円安が進行すると、輸入品の価格が上昇します。たとえば、1ドル100円の時に1万ドルの建築資材を輸入する場合、100万円の費用がかかりますが、1ドル160円になると160万円の費用が必要になります。このように、円安は建築資材の調達コストを押し上げ、建築費全体の高騰を招くのです。

 

建築費の上昇は、新築物件の販売価格の上昇につながります。不動産投資家にとっては、物件価格の上昇により利回りが低下するリスクがあります。特に新築物件は、「新築プレミアム」と呼ばれる割高な価格設定がされるため、利回り面では不利になりがちです。

 

一方で、建築費の上昇は中古物件の価値を相対的に押し上げる効果もあります。新築物件の価格が上昇すれば、新築を諦めて中古物件を購入する需要が高まるためです。また、高い建築費を背景に、中古物件の売主が価格を引き上げるケースも見られます。

 

以上のように、円安は建築市場と不動産投資に複雑な影響を及ぼします。投資家は、為替の動向を注視しつつ、新築と中古のバランスを考慮した投資用の物件選びが求められます。建築業界の人手不足や建築費高騰の長期化が見込まれるなか、中古物件のリノベーションなども選択肢の一つといえるでしょう。

 

円安による海外投資家の不動産購入意欲拡大

 

近年の円安傾向により、海外投資家にとって日本の不動産は非常に割安に映っています。たとえば、1ドルが110円の時に1億円の物件を購入すると、約909,091ドルになります。しかし、1ドルが130円になると、同じ1億円の物件は約769,231ドルで購入できます。つまり、約140,000ドル安くなるのです。この大幅な割安感から、海外投資家による日本の不動産購入意欲が大きく高まっているといえるでしょう。

 

日本政府は外国人による土地取得に規制を設けていないため、海外から自由に不動産の購入が可能です(ただし、安全保障上で重要な地域での土地利用は規制されています)。     金融緩和策の維持により金利上昇による不動産価格の下落リスクが低いなど、日本は安定的で魅力的な投資先とみなされています。こうした環境が後押しとなり、海外マネーの流入に拍車がかかっているのです。

 

ただし、日本人投資家にとっては脅威となる面もあります。豊富な資金力を持つ海外投資家との競合が激化することで、優良物件の取得が難しくなる恐れがあるためです。

 

このように、円安を追い風に海外投資家の日本不動産購入意欲は拡大の一途をたどっています。もしあなたが不動産投資を考えているなら、為替の動向や海外マネーの動きを注視しつつ、不動産市場の状況、経済状況、利回り、自身の資金繰りや投資目標などを考慮しながら、適切なタイミングで収益物件を取得または投資していくことが重要です。

 

インフレによる住宅ローン金利上昇

円安になると輸入品の価格が上昇し、国内での消費者物価が上昇するため、インフレ圧力が強まります。そして、インフレによる住宅ローン金利の上昇は、不動産投資に大きな影響を与えます。ここからは金利上昇とその影響について説明します。

 

インフレと金利上昇の関係

 

インフレが進むと通貨の価値が下がり、物価が上がります。日銀は物価の安定を目指しており、インフレを抑えるために金融引き締め政策を取ることがあります。具体的には、政策金利を引き上げて市場金利を上げるのです。

 

そして、一般的に、変動金利型の住宅ローン金利は短期金利の、全期間固定金利型や固定金利期間選択型の住宅ローン金利は長期金利の影響を受けます。長期金利は日本銀行の金融政策の影響を受けるため、金融引き締めが行われると住宅ローン金利も上がります。その結果、ローンの返済負担が増える可能性が高まるのです。

 

金利上昇が不動産投資に与える影響

 

金利上昇は不動産投資に大きな影響を与えます。金利が上がり借入金の返済額が増加することでキャッシュフローが悪化し、利回りの低下という形で投資家に痛手を負わせるからです。また、景気回復に伴う不動産需要の増加で物件価格が上昇すれば、新規投資が難しくなる可能性もあります。

 

一方で、景気回復で賃金が上昇すれば家賃の値上げも可能になり、キャッシュフローの改善につながるケースもありますが、賃金の上昇ペースが物価上昇に追いつかなければ家賃の値上げは難しくなります。

 

金利上昇リスクへの対策

 

金利上昇リスクへの主な対策としては、以下の3つが挙げられます。

 

1.固定金利の選択

固定金利とは、借入期間中の金利が一定に保たれることで、返済額も一定となり、資金管理が容易になるというメリットがあります。しかし、一般的には変動金利よりも固定金利の方が金利は高めに設定されています。

 

固定金利には主に2つのタイプが存在します。

 

① 全期間固定金利型:ローン契約時の金利が完済まで変わらない金利タイプで、市場金利が変動しても金利が一定に保たれます。

 

② 固定期間選択型:借入当初に設定した一定期間(3年・5年・10年など)中は金利が変わらないローンで、終了後は同じ固定期間を選ぶか、固定期間を変更するか、もしくは変動金利型に変更することも可能です。ただし、不動産投資ローンの目的で長期固定金利を提供している金融機関は多くありません。

 

2.繰り上げ返済の活用

繰り上げ返済は、不動産投資における金利上昇リスクへの対策として有効な戦略です。毎月の返済額は同じままで、返済期間を短くする返済期間短縮型で繰り上げ返済を行うことで、返済期間を短縮し、金利上昇の影響を抑えることができます。しかし、手元資金を減らしすぎると、修繕や空室などの突発的な出費に対応できなくなる可能性もあります。そのため、無理なく、計画的かつ段階的に繰り上げ返済を進めていくことが大切です。

 

3.早期の借り入れ

金利上昇が予想される場合、金利が上がる前に資金を調達しておくことで、有利な条件で投資できる可能性があります。これは、住宅ローンを検討している場合に当てはまる身近な例と言えるでしょう。

 

たとえば、将来的に金利上昇が見込まれる状況で住宅購入を計画している場合、金利が上がる前に住宅ローンを組むことで、借入コストを抑えることができます。仮に、現在の住宅ローン金利が1.0%で、1年後に1.5%に上昇すると予想されている場合、今のうちに借入を行うことで、0.5%分の金利コストを節約できることになります。

 

ただし、金利動向の予測は難しく、予想に反して金利が下がる可能性もあります。そのため、金利動向を注視しつつ、自身の資金計画やライフプランを考慮した上で、慎重に判断することが大切です。

 

円安による不動産価格の二極化

円安が進行することで、不動産価格の二極化がさらに加速する可能性が高まっています。その主な理由は以下の通りです。

 

都心部の優良物件は海外マネーの流入で価格上昇

 

先ほども解説したように、円安によって海外投資家から見た日本の不動産価格の割安感が強まっています。特に都心部の優良物件は、利便性や資産価値の高さから海外の投資家から根強い人気があります。

 

海外の富裕層や投資ファンドは、割安な東京の不動産への関心を高めており、海外マネーが日本に流入し続けています。この需要増が都心部の不動産価格をさらに押し上げる要因になるでしょう。

 

地方物件は人口減少や空室率上昇などの構造的問題が足かせに

 

一方、地方物件は人口減少や高齢化による需要減少、空室率の上昇といった構造的な問題を抱えています。国立社会保障・人口問題研究所によると、世帯総数は2020年の5,570万世帯から増加し、2030年の5,773万世帯でピークを迎えます。その後は減少に転じ、2050年には2020年よりも310万世帯少ない5,261万世帯となる予想です。地方を中心にエリア間の不動産価格の格差は今後も拡大する可能性が高いと考えられます。

 

収益物件の選定では立地や需要動向の見極めが重要に

 

このような環境下では、投資家は物件選定において立地条件需要動向を慎重に見極める必要があります。単に割安感だけで購入を判断するのではなく、中長期的に価値が上がりそうな物件を見抜く目利き力が問われているのです。

 

利便性が高く、賃貸需要が見込める都心部の優良物件は引き続き人気が高いと予想されます。一方、人口減少が進む地方都市の物件は、たとえ割安でも需要減少により資産価値が下がるリスクを十分に考慮する必要があるでしょう。

 

円安は不動産価格の二極化に拍車をかける要因ですが、それ以上に重要なのは個別の物件の将来性を見極める力です。投資家には、立地や需要動向を踏まえた慎重な物件選択が求められています。

 

円安メリットを活かした不動産投資戦略

円安は不動産投資にマイナスの影響を与える一方で、うまく活用すればメリットを得ることもできます。たとえば、海外不動産への投資は円安の追い風を受けられます。円安で外貨建ての収益が増加するためです。

 

また、インバウンド需要を取り込める物件への投資も有望といわれています。円安で日本への旅行者が増加すれば、宿泊施設やサービスアパートメントのニーズが高まるでしょう。観光地や交通の便がよいエリアの物件は、特に注目に値します。

 

投資家は為替動向を注視しつつ、柔軟に投資戦略を立てることが求められます。円安のデメリットを最小限に抑えつつ、メリットを最大限に活かすようにしましょう。

 

まとめ

 

円安は建築費上昇や海外投資家増加による競争激化など不動産投資にリスクをもたらす一方、インバウンド需要増加や海外不動産投資の促進といったメリットも存在するため、市場動向を注視し、為替リスクを踏まえた資金計画や物件選定、柔軟な投資戦略が重要となります。

 

ただ、円安の影響は不動産投資だけでなく、国民生活にも及びます。物価上昇による家計の圧迫や将来への不安が懸念されます。これらの課題を乗り越え、持続的な経済成長を実現するためには、政府の適切な政策運営と国民一人ひとりの努力が欠かせません。

 

円安という逆境を前向きにとらえ、新たな可能性を切り拓いていく姿勢が、今の時代に求められているのかもしれません。

Writer&Supervisor

執筆&監修者

山下 耕太郎

Koutarou Yamashita

一橋大学経済学部卒業後、証券会社で営業、マーケットアナリスト、先物ディーラーを経て個人投資家/金融ライターに転身。ライター歴6年、投資歴20年以上。保有資格は証券外務員一種。マーケットアナリスト時代は、日経CNBCに出演。そして、ディーラー時代は主に日経225先物・オプションを取引。現在は個人投資家として株式、先物、FX、CFDなどを取引している。また、金融ライターとして、上場企業、金融機関などで年間300本以上の記事を執筆・監修している。

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