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2025.02.10

透明性世界一のイギリス不動産投資市場(前編)〜100年の歴史が証明する安定性〜

 

 

世界中の投資家から注目を集めるイギリス不動産市場。なぜ世界の投資家が、イギリスの不動産に魅力を感じるのでしょうか。海外不動産コンサルティングのプロフェッショナルとして活躍する織田耕平さんに、イギリス不動産市場の特徴を詳しくお伺いしました。

日本とイギリスの不動産市場の違いや今後の展望など、3つのパートに分けてお届けいたします。

 

1980年に大阪府で生まれ、関西大学社会学部でマスコミュニケーションを専攻した後、オーストラリアのHolmes Collegesでビジネスマネジメントのディプロマを取得。

国内の大手メーカーの海外営業部に所属し、米国、アジア、オセアニアでの市場開拓とマーケティングに従事。その後、証券会社に転職し、富裕層や企業年金、機関投資家の資産運用、M&A、IPO、ファンド組成などに携わる。

さらに、航空機リース会社で富裕層向けの節税スキームの構築や旅客機営業を行い、2015年4月にシンガポールでJIFPASを設立。法人設立、会計、不動産、保険など幅広い国際金融業務を展開。現在は、海外不動産コーディネーターやシンガポール富裕層へのコンサルティングなど、幅広く金融商品の開発に携わる。著書:ドクター向けフィリピン・カンボジア投資(幻冬舎:2016年8月出版 共著:大山一也)

 


―はじめに、イギリスの不動産市場の特徴について教えてください。

イギリスの不動産市場の最大の特徴は、過去100年にわたる住宅価格推移や、不動産取引のデータが存在することです。国土交通省に相当する機関が住宅価格指数を持ち、登記簿には過去の所有者や取引価格がすべて公開されています。取引履歴が100年以上さかのぼって確認でき、これは世界的に見ても非常に珍しいことです。2022年の日韓不動産経済新通信の記事によれば、イギリスの不動産透明度ランキングは、5回連続で世界1位を獲得しています。

また、イギリスにはオックスフォード大学やケンブリッジ大学など、世界的に有名な大学が多数あり、海外からの留学生も多いため学生寮などの市場も注目を集めています。

―日本との違いは何でしょうか?

日本は不動産透明度ランキングで12位と、先進国としては低い評価です。日本では、不動産仲介手数料に法律で上限が設けられています。しかし、実際の取引では、仲介業者が『媒介』という形式を採ることで、仲介業者は、売り手と買い手の両方から手数料を徴収することができ、結果的に上限を超える手数料を得ることができるのです。

 

一方、イギリスでは、不動産仲介手数料に法定の上限はありません。代わりに、不動産取引はすべて売り手と買い手の直接取引で行われています。取引価格も完全に公開され、高い透明性があります。登記簿に全ての取引価格が掲載されているので、悪いことができない仕組みになっています。

 

この仲介手数料と取引価格の透明性が、海外投資家から見て大きな魅力となっている点です。これは多民族国家ならではの特徴で、商習慣が違う人が集まっても混乱しないよう、分かりやすい制度になっています。

 

また、イギリスでは、過去のトラックをみている限り、約20年ごとに不動産価格が倍になってます。そのため「将来の資産形成のためには、まず家を買うべき」と考えられています。日本では住宅価格が長期間にわたって上昇し続けるということはまずないので、家の購入がそのまま資産形成になるという考えは一般的ではありませんよね。不動産価格の高騰が続くヨーロッパでは、不動産購入は資産形成に非常に役立つと考えられています。

―具体的に、住宅価格の推移を教えてください。

イギリスの住宅価格は約20年ごとに、およそ倍になっています。例えば2004年から2024年までの約20年間では、平均住宅価格は15万ポンドから30万ポンド近くまで上がっているんです。

 

 

現在のイギリス全土の平均価格は28万6,000ポンド、日本円にして約6,000万円です。これは日本全国の平均値と比較しても非常に高水準です。さらにロンドンの中心地では3BRのアパートメントでも100万ポンド(約2億円)以上が一般的ですし、中には200万ポンド(約4億円)の価格帯の物件も珍しくはありません。

 

特筆すべきは、2008年のリーマンショック時でも価格下落は15%程度に留まったことです。これは、他の先進国と比べても極めて小さい下落幅でした。その後の回復も早く、特にロンドンの都市圏では1年で50%以上の価格回復を見せました。

 

―住宅ローンの仕組みも、日本とは異なるそうですね。

大きく異なります。イギリスでは30年、35年といった超長期の住宅ローンはありません。一般的には5年程度の期間で、毎月の支払いは金利分のみ。元本は物件売却時に一括返済する仕組みです。

これは「不動産価値は下がらない」という考えに基づいています。例えば1億円の物件を購入した場合、5年後には1億2〜3,000万円になっているという前提です。売却時の値上がり分で元本を返済するという考え方ですね。
しかし、頭金として物件価格の30%程度が必要です。1億円の物件なら3,000万円の現金が必要になります。そのため、若い世代の住宅購入のハードルは高くなっています。

―近年の金利上昇の影響は?

コロナ前は5年固定で1.7%程度だった金利が、2022年にはピーク時8.5%まで上昇しました。これは多くの借り手に深刻な影響を与えました。イギリスでは5年ごとに住宅ローンを借り換えるのが一般的であるため、金利上昇局面での借り換えは、月々の返済額が大幅に増えるリスクがあります。現在の金利は3%台まで低下していますが、急激な金利上昇の影響により銀行の融資姿勢は慎重になっています。

―なぜイギリスの不動産価格は安定しているのですか?

不動産の供給をコントロールする仕組みがあることが理由の一つです。
イギリスでは土地利用に厳格な制限があります。国土の90%は「グリーンベルト」や「ブラウンフィールド」と呼ばれる保護地域で、開発が制限されています。自然環境の保護を目的として導入され、具体的には、主要な都市部の周囲に広大な緑地帯を設定し、その区域内での開発を厳しく制限するというものです。実際に開発可能な都市部は、わずか10%です。

 

イギリスの国土面積は日本の約3分の2です。この狭い国土の中で、さらに90%もの土地が開発制限下にあるのは非常に大きな制約といえます。

この政策の歴史は非常に古く、実は産業革命期の19世紀から考え方が存在していました。当時の都市部では、工場からの煤煙などによる深刻な公害問題が発生していました。そのため、住宅地と工業地を明確に分離し、緩衝地帯を設ける必要性が認識されていたのです。

 

このようにグリーンベルト政策は、イギリスの不動産市場に大きな影響を及ぼしています。供給が極端に制限されることで不動産価格の高騰を招き、また、開発許可が下りにくい状況が投資案件の選択肢を狭める要因となっています。一方で、自然環境の保護という政策目的も果たされているのが特徴です。

 

さらに、都市部の建物の多くは250-300年前の歴史的建造物として保存されています。建築物(不動産)の保存リストがあり、不動産の歴史的価値などに基づいてレベル分けされているのです。最も保存されるべきレベル1に該当する不動産については、原則解体・増築などが許可されません。

日本なら六本木エリアや渋谷エリアのような大規模な再開発が可能でも、イギリスでは認められません。例外的に開発が許可されるのは、第二次世界大戦時の空襲で破壊された地域など、限られたエリアのみです。

 

―日本とはずいぶん開発の背景が異なるのですね。

そうですね。日本ではデベロッパーが需要を作り出しています。例えば「駅近物件」の価値は、実は鉄道会社系デベロッパーが50年、100年かけて作り上げた都市計画の結果なんです。
具体例を挙げると、関西では大手不動産会社が宝塚を開発しました。もともと畑だった土地に駅を作って「宝塚歌劇団」を誘致し、高級住宅街として開発していったのです。東京でも、田園調布や二子玉川、武蔵小杉など、50年前は田園地帯だった場所が、鉄道系デベロッパーの戦略で高級住宅地に変貌しました。

このように日本では、デベロッパーが駅を作り、周辺の土地を押さえて開発を進めます。しかし、この手法は供給過多のリスクをはらんでいます。実際、高度経済成長期に作られた衛星都市の多くが、現在は空洞化の課題を抱えているのです。

次回の記事では、イギリスにおける不動産開発の特徴や注目の市場などについてをお伺いしています。

 

Writer

執筆者

かたおか由衣

kataoka Yui

東京学芸大学卒業後、リゾート運営会社で広報と施設運営に携わる。専業主婦を経て、2020年よりフリーランス。
「講談社コクリコ」「朝日新聞EduA」「週刊東洋経済」など様々な媒体で、主に教育、子育て、働き方、エンタメ分野で執筆。
小・中学生の3児の母。X:MomYuuuuui
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