マネー&ビジネス
2024.05.29
人類の歴史において、金(ゴールド)は古くからその価値が認められ、通貨や装飾品として用いられてきました。時代を超えて富の象徴として人類の歴史と共に歩んできた金。本記事では、資産としての金に焦点を当て、その近現代史を紐ときます。
ゴールドラッシュとは何だったのか、金本位制はどのように興亡したのか、そして現代において金はどのような投資の選択肢となり得るのかなど、金の魅力に迫ります。
主要な金の需要
宝飾品 | ジュエリーや美術品など |
テクノロジー | 電子機器や半導体・集積回路などの電子部品 |
中央銀行 | 外貨準備として保有 |
投資 | 金地金・金貨(実物資産)・ETF(上場投資信託)など |
金は古くからその希少性、美しさ、不変性から価値ある資産として認識されてきました。地球上に存在する金の量は限られており、人工的に製造することが不可能なため、金の希少価値は高く保たれているからです。また、金は純金であれば錆びることはなく、熱や電気の伝導性に優れ、加工しやすいという特性を持っています。これらの特性から、金は装飾品としてだけでなく、工業用途でも需要が高く、その価値がゼロになる可能性は極めて低いといえるでしょう。
ワールド・ゴールド・カウンシルによると、2014年から2024年の第一四半期におけるセクター別の金需要と平均(青線)は、以下の通りです。
資産運用の観点では、金はインフレーション時に通貨の価値が下落する際のリスク回避としての「インフレヘッジ」の機能を持っており、インフレ時には、金の価値が相対的に上昇する傾向があります。これは金が実物資産であり、通貨とは異なる価値尺度を持っているためです。また、金は危機の際の逃避資産としても重要な役割を果たします。経済の不確実性が高まったり、地政学的リスクが高まったりすると、投資家は安全性の高い資産を求めて、金に投資する傾向があるからです。
さらに、金はポートフォリオの分散効果を高める役割も期待できます。株式や債券といった他の資産クラスとは異なる値動きをするため、金を組み入れることでポートフォリオ全体のリスクを減らすことができるからです。
金は世界中で普遍的な価値を持つ資産であり、国境を越えて取引されています。特に金融危機や経済の不安定な時期には、金の需要が高まる傾向にあります。投資家は、「有事の金」と呼び、戦争や自然災害など不確実性の高い時代における資産保全の手段として重視しているのです。
たとえば、以下の図のように、ドットコムバブル崩壊や世界的な金融危機後に金価格は大きく上昇していることがわかります。
金は希少性、美しさ、不変性といった特性に加え、インフレヘッジ、危機の際の逃避資産、ポートフォリオの分散効果など、資産運用における様々な魅力を持っています。長期的な価値の保存や、経済の不確実性に対するヘッジとして、金は投資家にとって魅力的な選択肢の一つと言えるでしょう。
ゴールドラッシュでは、国内だけでなく海外からも多くの人を惹きつけた。働く鉱夫たちとサンフランシスコへ向かう船を描いた当時の広告。
出典:Online Archive of California California [ship], G.F. Nesbitt & Co., printer (printer)
それでは、ゴールドラッシュが沸き起こった19世紀から、金の歴史を紐といてみましょう。19世紀、アメリカやオーストラリアでゴールドラッシュが巻き起こり、人々の冒険心と富を求める欲望を刺激しました。1848年のカリフォルニア・ゴールドラッシュでは、アメリカの国内外から数十万人の人々が一攫千金を夢見て金鉱に殺到。鉱夫たちは過酷な環境の中で金を掘り、幸運な者は一生分の富を手にしたのです。
ゴールドラッシュは、金供給量を増やしただけでなく、西部開拓を促進する原動力にもなりました。金を求めて多くの人々がカリフォルニアをはじめとする西部に移住し、インフラ整備や都市の発展が進むことに繋がったからです。また、ゴールドラッシュは世界中から移民を引き付け、多様な文化が融合する新たなコミュニティが形成されました。彼らは金鉱で働くだけでなく、商店や旅館を開いたり、農業に従事したりと、ゴールドラッシュをきっかけに様々な産業が発展したのです。
ゴールドラッシュは社会や経済に大きな影響を与えました。ただ、地域経済の活性化や雇用創出につながった一方で、先住民の土地が奪われたり、環境破壊が進んだりするなど、負の側面もあります。しかし、ゴールドラッシュは金がもたらす富と夢の象徴として、人々の記憶に刻まれ、小説や映画のモチーフになるなど、現代まで語り継がれています。
19世紀から20世紀初頭にかけて、多くの国々が金本位制を採用していました。金本位制とは、通貨の価値を金に連動させる仕組みで、各国の通貨は一定量の金と交換可能でした。
また、金は国際決済の手段としても機能していました。しかし、第一次世界大戦の戦費調達のために通貨が増刷され、金との交換が停止されたことで、金本位制は崩壊していきました。
そして、第二次世界大戦後、アメリカは多額の賠償金を得て大量の金を確保し、米ドルと金の価値を連動させたいと考えました。その結果、ブレトンウッズ協定に基づく国際通貨制度であるブレトンウッズ体制が誕生。この体制のもと、日本をはじめとする各国は金と紐づけされた米ドルとの固定為替相場制を採用し、間接的な金本位制となりました。しかし、1971年にアメリカがドルと金の交換を停止(ニクソン・ショック)したことで、通貨と金の関係性は大きく変化。世界は金を裏付けとしない変動相場制へと移行したのです。
参考サイト ※筆者作成
現在の変動相場制の下では、通貨は金によって裏付けられてはいません。しかし、金は依然として重要な資産の一つであり続けています。金の希少性や不変性から、長期的な価値の保存手段として重宝されているからです。
ポートフォリオの分散投資における金の重要性は、現在も変わっていません。金融危機や経済の不安定な時期には、金の需要が高まる傾向にあります。金は通貨制度の変化を経てもなお、その価値と魅力を失うことなく、投資家にとって重要な資産であり続けているのです。
現代の投資家は、金投資に対して様々なアプローチを取ることができます。伝統的な方法は、金地金(*1)や金貨の直接購入です。金地金は貴金属メーカーや地金商の店舗やインターネット、電話でも購入できます。そして、金貨は貴金属店や百貨店などで手軽に購入できますが、金貨にはデザインや加工費などのプレミアムが上乗せされるため、金地金よりも割高になります。
しかし、金の直接購入には保管コストと手間がかかるというデメリットがあります。より手軽に金投資をしたい場合、金ETF(上場投資信託)が人気です。金ETFは金価格に連動するように設計された投資信託で、株式と同様に取引所で売買できます。
2004年、米国で初の金現物ETFである「SPDR Gold Shares(GLD)」がニューヨーク証券取引所に上場され、機関投資家や個人投資家が簡単かつ低コストで金を取引できるようになりました。GLDは上場後3営業日で運用資産が10億ドルを超え、1年以内に3倍に増加するなど、金ETFは急速に成長しました。ちなみに、GLDは、新NISAの成長投資枠を利用して購入することができます。
また、少額から始められる「純金積立」もおすすめです。純金積立は、毎月一定額を積み立てて金を購入する資産運用の方法です。この方法を用いることで金価格が高い時は少なく、安い時は多く購入することとなるため、平均購入単価を抑えることができます。これにより、価格変動リスクを軽減できます。純金積立は少額から始められ、金の現物を自分で保管する必要もないため、初心者にもおすすめの金投資です。ただし、手数料などのコストには注意が必要です。
また、金鉱山会社の株式に投資することで、金価格上昇の恩恵を受けることもできますが、金鉱株は経営リスクがあるため、慎重な銘柄選択が必要です。
このように、現代の投資家は自身のニーズや投資スタイルに合わせて、金地金や金貨の現物購入、金ETF、金鉱株など、様々な金投資の手段を選択できます。
しかし、他の投資商品と同様に金投資にも様々なリスクが伴います。
まず、価格変動リスクとして、金の価値が下落する可能性があります。金の価格は需給や経済情勢、為替などの影響を受けやすいため、注意が必要です。また、金の現物を自宅などで保管する場合、盗難や紛失のリスクも考えられます。
そして、金に集中投資してしまうと、万が一、金価格が下落した際に大きな損失を被る集中投資リスクも忘れてはなりません。金投資は安定した資産と言われることが多いものの、これらのリスクをきちんと理解した上で投資を行うようにしてください。
(*1)金地金(きんじがね):インゴットやゴールドバーとも呼ばれ、保管しやすいように変形させた金の塊
近年、アジアを中心とした新興国で金需要が高まっています。経済成長に伴い、富裕層が資産防衛の手段として金を購入しているからです。また、金は宗教的・文化的な意味合いから、伝統的に重要な役割を果たしてきた地域も多く、根強い需要があります。
また、中央銀行も外貨準備の分散を目的として金を購入しています。米ドルなどの特定通貨に偏ったポートフォリオは為替リスクが高いからです。特に、2010年以降、新興国の中央銀行は外貨準備における金の割合を増やしてきました。
ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)によると、中央銀行による金購入は年間約1,037トンと、2年連続で1,000トンを超える高い水準を維持。2022年の記録的な水準には及ばなかったものの、中央銀行の旺盛な金需要が継続していることが示されました。
新興国と中央銀行の金需要は、今後も金価格を下支えする要因になると予想されます。アジア新興国では、経済成長と所得水準の向上に伴い、個人投資家の金融資産運用の選択肢が広がっているからです。これにより、金投資への関心が高まると予想され、金需要の増加が見込まれるでしょう。
2024年は金の国際価格が上昇し、3月以降、その勢いは加速しています。地政学的な緊張の高まりやインフレへの懸念、各国の中央銀行による金の保有増加などが、金を押し上げる要因となっています。特に、イランとイスラエルの対立激化は株式市場を不安定化させ、金への逃避的な資金流入を招いているのです。
出典:Trading view
また、インフレが長引く中、金の保有を増やす動きも見られます。実物資産である金は、インフレヘッジとして注目されているからです。さらに、ウクライナ侵略に対する制裁としてロシアのドル資産が凍結されて以降、中国をはじめとする新興国を中心に、外貨準備を分散し、金の保有を増やす構造的な動きが見られます。
米国などの債務膨張や財政悪化も、金買いの理由の一つとなっています。長期的な財政の持続性や紙幣の減価に対する懸念が、金の需要を高めているのです。金は本来、金利がつかず、自ら価値を生み出すものではありませんが、70年代のような国際的な枠組みが揺らぎ、スタグフレーション(低成長と高インフレの共存)が起こる時代には、金の価値が上昇する傾向があります。
世界経済のリスクを敏感に反映する金価格の動向は、現在の分断が深まり、危機が広がる経済状況を映す指標の一つと考えられるでしょう。
金は時代を超えて価値を保ち続けてきた資産であり、現代においても投資家や中央銀行から注目を集めています。ゴールドラッシュに象徴されるように、金は人々を魅了し、富と夢をもたらしてきました。現代では、金投資の選択肢が多様化しています。金地金やETF、金鉱株など、投資家それぞれのニーズや投資スタイルに合わせて様々な方法で金に投資することが可能です。
また、新興国の経済成長に伴い、金需要は底堅く推移すると予想されます。富裕層の資産防衛手段として金が選ばれる傾向があるだけでなく、中央銀行も外貨準備の多様化を目的に金を購入しているからです。このように、金は時代を超えて価値ある資産として認識されており、今後も国家や個人の資産ポートフォリオにおいて重要な役割を担うでしょう。
Writer&Supervisor
執筆&監修者
山下 耕太郎
Koutarou Yamashita
スマホで完結できる不動産クラウドファンディング「ヤマワケエステート」
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