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2025.10.24

副業解禁時代における会社員の税金対策~仕組み、方法、そして注意点を解説

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目次

1. 副業解禁時代の到来

 

近年、日本の働き方は大きな転換点を迎えています。政府が推進する働き方改革の一環として、副業や兼業を認める流れが急速に広がっているのです。これまで多くの企業では「副業禁止」が一般的でしたが、人材の流動化や新しい価値創出の必要性が高まり、大手企業を中心に方針を改める動きが目立ちます。

 

副業が注目される理由は、単なる収入増加だけではありません。自分のスキルを磨き、将来のキャリアにつなげられる点に加え、経費計上や損益通算といった仕組みを活用することで節税効果を得られる可能性がある点も魅力です。特に物価上昇や将来の年金不安が意識される中、副業は家計を守る有効な手段となりつつあります。

 

2. 副業による節税の基本仕組み

副業を始めると「収入は増えるけれど、その分税金が増えるのでは?」と不安に思う方が多いかもしれません。しかし、税制を正しく理解すれば、むしろ副業が節税につながるケースもあります。ここでは、副業と税金の関係を理解するうえで欠かせない二つのポイント、「損益通算」と「所得区分」について整理します。

2-1. 損益通算とは何か

損益通算とは、簡単に言えば「副業で出た赤字を本業の所得から差し引く」仕組みです。例えば、本業の給与所得が年間500万円、副業での収支がマイナス80万円だった場合、確定申告で損益通算を行うと課税対象額は500万円ではなく420万円となります。結果として所得税や住民税の負担が軽減され、赤字でも得をすることがあるのです。

 

このような節税が可能になるのは、経費の概念があるからです。副業を行う際には、収入を得るために必要な支出、例えばパソコンやスマートフォンの購入費、交通費、打ち合わせの飲食代、書籍代、インターネット回線費用などを経費として計上できます。経費が収入を上回れば「赤字」となりますが、その赤字分は本業の所得から差し引けるため、結果的に節税効果を得られるわけです。

 

ただし注意点として、損益通算はすべての副業に適用されるわけではありません。赤字を他の所得と合算できるかどうかは「所得の種類」によって決まります。ここで重要になるのが次に説明する「所得区分」です。

2-2. 所得区分の重要性

税法上、副業で得た収入は大きく「事業所得」か「雑所得」に分けられます。この区分を正しく理解し、適切に申告することが節税の第一歩です。

 

事業所得とは、営利性・継続性・反復性をもって行う事業活動から得られる所得を指します。たとえば、ライターやデザイナー、プログラマーとして継続的に仕事を受注している場合、事業所得と認められる可能性が高いです。事業所得であれば損益通算が可能で、赤字を本業の給与所得などと合算して税金を抑えることができます。さらに青色申告を選択することで、65万円の特別控除や赤字の繰越控除といったメリットも受けられます。

 

一方、雑所得は「事業」と認められるほどの規模や継続性がない場合に該当します。例えば、不定期にクラウドソーシングで仕事を受けるだけ、趣味の延長で得た収入、あるいは副業の売上規模が小さい場合は雑所得に区分されることが多いです。雑所得の場合、損益通算は認められず、赤字が出ても本業の所得から差し引くことはできません。

 

事業所得か雑所得かの判定基準は「反復性」「継続性」「独立性」がカギとなります。国税庁の判断はケースバイケースであり、同じ副業でも申告内容や取引実態によって区分が変わることもあります。例えば、せどりを毎月一定規模で行い、帳簿を整備し、事業としての体裁を整えていれば事業所得と認められる可能性が高まりますが、たまにネットオークションで物を売る程度なら雑所得扱いとなるでしょう。

区分を誤るとリスクも伴います。事業所得と主張して経費を多く計上し、損益通算で税金を抑えていた場合に、後から税務署に「雑所得」と判断されれば、否認され追徴課税や加算税が課されることもあります。つまり、副業における税務戦略では「所得区分をどう判断するか」が極めて重要になるのです。

3. 具体的な節税テクニック

副業による節税を実現するためには、制度やルールを知っているだけでは不十分です。実際に日々の活動の中でどのように経費を管理し、確定申告に反映させるかが重要になります。ここでは、副業に取り組む人が押さえておくべき具体的な節税テクニックを3つに分けて解説します。

 

3-1. 経費計上の基本

副業の収入は「売上-経費」で計算されます。つまり、正しく経費を計上すればするほど課税対象となる所得を減らすことができます。経費として認められるのは「収入を得るために直接必要な支出」です。

 

代表的なものを整理すると以下の通りです。

 

経費の種類 内容・具体例
交通費 打ち合わせや取材の移動にかかった電車代、バス代、タクシー代
飲食代 取引先やクライアントとの打ち合わせに伴う飲食費
事務用品費 文房具、プリンターインク、コピー用紙など
通信費 インターネット回線費用やスマホ代(業務利用分を按分)
広告宣伝費 SNS広告や名刺作成費用
書籍代・セミナー参加費 スキルアップや情報収集のための支出
電子機器代 パソコン、タブレット、周辺機器など
家賃・光熱費 自宅を仕事場に使う場合、仕事で使った割合を按分して計上可能

 

ポイントは「私的上の利用と業務上の利用を区別する」ことです。例えば、自宅の家賃を全額経費にすると否認される可能性が高いため、仕事で使うスペースや時間に応じて按分する必要があります。また、領収書やレシートの保管は必須です。クラウド会計ソフトやスキャナを活用して記録を残すと、後々の申告がスムーズになります。

3-2. 青色申告の活用法

副業を本格的に行うなら、青色申告は欠かせません。白色申告と比べて税制上のメリットが大きく、節税効果を高めることができます。

 

青色申告特別控除:青色申告で控除を受ける場合、複式簿記で記帳した場合、最大65万円の控除であるのに対し、簡易簿記を用いて記帳することも可能ですが、この場合は青色申告最大のメリットとなる特別控除が10万円になってしまいます。

 

赤字の繰越控除:青色申告をしていれば、副業で損失が出た場合にその赤字を最長3年間繰り越せます。翌年以降の黒字と相殺できるため、赤字が無駄になりません。

 

青色事業専従者給与:家族に副業を手伝ってもらい給与を支払った場合、必要経費として認められます。

 

青色申告を行うには、開業届と「青色申告承認申請書」を税務署に提出する必要があります。副業を始めたら早めに準備を進めると良いでしょう。

 

3-3. その他の節税制度

青色申告以外にも、副業に役立つ節税制度があります。代表的なものを見てみましょう。

 

少額減価償却資産の特例:1つの資産が30万円未満であれば、その年に一括で経費に計上できます。たとえば20万円のパソコンを購入した場合、本来は数年に分けて減価償却する必要がありますが、この特例を使えばその年の経費に一括計上が可能です。

 

短期前払費用の特例:翌年に提供されるサービスでも、支払った年の経費に計上できる場合があります。たとえば年間契約のソフト利用料を一括で支払った場合に有効です。

 

所得税の還付:副業で源泉徴収されている場合、必要経費を計上して所得が減れば、税金が戻ってくるケースもあります。還付金は実質的に「節税のリターン」といえるでしょう。

 

4. 副業と会社の関係をスマートに管理するポイント

副業を始める際に忘れてはならないのが「会社との関係」です。どれほど収入や節税効果があっても、本業に悪影響を与えたり、会社のルールに違反してしまうとトラブルのもとになります。ここでは、副業を継続的に行うために意識すべき3つのポイントを整理します。

4-1. 就業規則を正しく理解する

まず確認すべきは、勤務先の就業規則です。近年は副業を容認する企業が増えていますが、すべての会社が自由に認めているわけではありません。「申請すれば許可」「競合する業務は禁止」「収入額に制限あり」など、条件を設けているケースも少なくありません。

 

副業を始める前に、自分の会社がどのようなスタンスを取っているのかを確認し、必要であれば人事部門や上司に相談することが大切です。就業規則を無視して副業を行った場合、懲戒処分や信用低下につながる恐れがあるため注意が必要です。

4-2. 税金を適切に処理する

 

副業を行う際には、住民税の仕組みを正しく理解することが欠かせません。確定申告をすると、本業の収入だけでなく副業による所得も合算され、総収入に基づいた住民税が計算されます。そのため、通知される住民税の金額が増加し、結果的に勤務先に副業の存在が推測されてしまう可能性があります。この点を把握していないと、思わぬ形で本業に影響が及ぶこともあるため注意が必要です。

住民税の納付方法には「特別徴収」と「普通徴収」があり、通常は勤務先で給与から天引きされる特別徴収が基本です。しかし、副業をしている場合には、確定申告時に副業分の住民税を「普通徴収」として指定し、自分で納付する方法を選べます。この仕組みを活用すれば、本業の勤務先には本業収入に基づく住民税のみが通知され、副業収入分は自ら納めることが可能になります。大切なのは、ルールに沿って正しく申告し、透明性を保ったうえできちんと管理することです。

 

4-3. 本業とのバランスを保つ

副業はあくまで「本業あってこそ」成立するものです。副業に熱中しすぎて本業のパフォーマンスが落ちてしまえば、元も子もありません。

 

効率的に時間を使う工夫が重要です。例えば、週末や早朝の時間を活用する、納期に余裕を持ったスケジュール管理を徹底するなど、無理のない働き方を意識しましょう。さらに、副業で得た経験やスキルを本業に還元できれば、会社からの評価が高まり、双方に良い影響をもたらすことも可能です。

 

5. 注意すべき税務上の落とし穴

副業を始めると「収入が増えて生活が安定する」というメリットがある一方で、税務上の落とし穴には注意が必要です。知識不足のまま取り組むと、思わぬ追徴課税やトラブルに発展しかねません。ここでは特に押さえておきたい3つのポイントを解説します。

5-1. 確定申告の義務

副業収入がある場合、原則として確定申告が必要です。よく知られている「20万円ルール」は、給与所得者が本業の給与以外に得た副業収入が年間20万円以下であれば所得税の確定申告を省略できるというものです。ただし、このルールには誤解が多く、注意が必要です。

 

まず、住民税については「1円でも利益が出れば申告義務がある」ため、20万円以下の副業でも住民税の申告は必須です。また、確定申告を怠ると無申告加算税や延滞税などのペナルティが課される可能性があります。特に近年は副業収入の把握が容易になっており、税務署も副業調査に積極的です。収入規模にかかわらず、きちんと申告する姿勢が重要です。

 

5-2. インボイス制度の影響

2023年10月にスタートしたインボイス制度は、副業を行う個人事業主にも大きな影響を与えます。副業で請け負う仕事が課税取引に該当する場合、取引先から「適格請求書発行事業者」への登録を求められるケースが増えています。登録をしないままでは、取引先が仕入税額控除を受けられず、契約打ち切りのリスクもあります。

 

また、適格請求書発行事業者に登録すると、その時点から消費税の納税義務が発生します。副業の売上が年間1,000万円以下でも、登録した以上は消費税を納める必要があるため、収入と支出のバランスに注意しなければなりません。さらに、登録者の情報は国税庁のウェブサイトに公開されるため、プライバシーへの配慮も必要です。

5-3. 最新の税制改正情報

副業を取り巻く税制は流動的であり、最新の情報を常にチェックする姿勢が欠かせません。税制の改正は節税戦略に直結するため、ニュースや国税庁の情報発信を定期的に確認することが大切です。不明点があれば税理士などの専門家に相談し、自分の副業がどのような影響を受けるかを早めに把握しておきましょう。

 

6. まとめ

 

副業は収入を増やすだけでなく、節税効果やキャリア形成のチャンスにもつながります。しかし、仕組みを理解せずに進めると追徴課税や会社とのトラブルといったリスクを抱えることになりかねません。損益通算や所得区分の違いを正しく把握し、青色申告や経費計上を適切に活用することが重要です。また、住民税の納付方法を工夫するなど、会社に配慮した管理も欠かせません。さらに、インボイス制度や税制改正の影響は副業に直結するため、常に最新情報をチェックする姿勢が必要です。副業解禁時代を生き抜くには、知識を武器に「収入の最大化」と「リスクの最小化」を両立することが鍵となります。

 

Writer&Supervisor

執筆&監修者

山下 耕太郎

Koutarou Yamashita

一橋大学経済学部卒業後、証券会社で営業、マーケットアナリスト、先物ディーラーを経て個人投資家/金融ライターに転身。ライター歴6年、投資歴20年以上。保有資格は証券外務員一種。マーケットアナリスト時代は、日経CNBCに出演。そして、ディーラー時代は主に日経225先物・オプションを取引。現在は個人投資家として株式、先物、FX、CFDなどを取引している。また、金融ライターとして、上場企業、金融機関などで年間300本以上の記事を執筆・監修している。
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